欠陥模型大百科・月光騎士版
ENCYCLOPEDIA MODELLICA “Moonriders” version
Private Edition Ver.XI.07
石川雅夫(MMI)
第13回モデラーズ・スペース展示会(2002年)
後始末 (After care)
毎度お馴染みの通り、初っ端はこのコーナーから始まる訳だが、今回それ程ネタはない。
前回のパンフ原稿は殆どがHJ掲載講座の後フォローで埋っていたから今更それを更に後フォローする事はないし、あれ以降、HJ誌にも記事らしい記事は掲載されていないので、フォローしようにもしようがないのである。
キュベレイの記事においては「オラザク」と云う枠内の記事であり、文章スペースも限られていた事もあり、もっぱら「極私的リアル論」についてのみの内容になってしまった為、あの作例における眼目であった筈の「ビスマス・パール」について基礎的な事しか書けなかった痛みはあるのだが、それについては別に独立した項目を設けるのでここではこれ以上書く事はない。
これを書いている時点では(そして展示会当日も)まだ掲載されてはいないが、もう1つのHJ誌掲載(予定)作例として、「ガンダム・インテグラル」の「ガンダム・ロールアウトタイプ」がある。作例自体は8月のC3会場で展示された物なので既に私の手は完全に離れている状況だが、これについては当原稿の〆切時点では実際にどう云う記事になるのかは不明な状態であり、これもまた現時点ではフォローのしようがない。「インテグラル」自体についての経緯は、今回の外伝で詳細に書いているので、そちらを読んで戴きたい。
白 (White)
私の様なキャラクター系メカモデラーや、フィギュアモデラーだけでなく、スケール系のモデラーも含めた殆ど全ジャンルにおけるモデラー共通の悩みの1つに、「隠蔽力の強い白が欲しい」と云うのがあると思う。
模型と云う物の定義について私は勝手に、「色彩、質感表現を塗装に頼る彫刻」だと思っているのだが、色表現を塗装に頼る関係から、白と云う色は、「白」を表現する時のみに必要とされるのではなく、「下地色」としてもかなりの頻度で使用される。
具体的な例としては、キャラクター系フィギュア等の鮮やかな発色が求められるアイテムや、それ以外のジャンルでも赤や黄に代表される、下地色を敏感に反映してしまう原色系の色を塗る場合等において、白い下地は必須の物となるのだ。
このように模型塗装においてはかなりの頻度で必要となって来る白塗装であるが、その実践において私達モデラーは、下地色としては致命的な問題に直面する事になる。
「白い塗料は透け易い」
のである。
わざわざ白地が必要とされる以上、「下地の黒味」、「その他の色味」、「下地の色ムラ」は完全に、とは言わないまでも、かなりのレベルまでは覆い隠される必要がある筈だが、通常の模型用塗料の白を使った場合、この目的を充分に達成する為には、かなりの厚さまで塗膜を塗り重ねる必要が出て来るのである。
それが大きな問題にならないケースもあるが、大抵の場合、「塗装に時間がかかる」、「モールドが潰れる」、「シャープさが失われる」と云った弊害が嫌われる事になる。
こうした場合、大抵において槍玉に挙げられるのがMr.カラーの#1ホワイトであり、これを「使えない」と切り捨てた後、「透けない白」を探す旅にでるモデラーは後を絶たなかった訳だが、ここ数年になってメーカーもやっと重い腰を上げ、数社から下地専用の白塗料が発売される様になった。モデラーズの、「ベースホワイト」を皮切りに、その後最大手のMr.カラーも同様の、「ベースホワイト」を出してこれに続く。
しかし、私個人の感想としては、この2点はどちらも合格点とは言い難いのである。
確かに隠蔽力は強いのだが、その隠蔽力を得る為にかなり粒子の粗い顔料を使用しており、ツヤ消しを通り越して、「梨地」になってしまうのである(尚、この、「粗い顔料」が体質顔料なのか、白顔料自体なのかは不明である。御存知の方がおられたらご教示戴けるとありがたい)。
問題なく使用している、と云う方も当然おられるだろうが、web上でも私と同じ様な感想、評価を見る事が多い気がするし、当然の事としてこの2点、私の選択肢からは外れている。
例えば、「うさPハウス」の相田和与さんとはイベント等で時々お話させて戴くのだが、「下地の白」と云う話になった所、やはり上記2点については、「使えない」と云う判断をされていた(相田氏と云えばセラムン系フィギュア専門の印象があるが、元来はカーモデル系の人であり、HPのアーティクルを見ても判る通り、塗装全般に対して大変造詣の深い方である)。その上で相田氏の意見によれば、「FINISHER’Sのファンデーション・ホワイト」は、「自分が使った模型流通で入手できる下地用白の中で、唯一実用レベルに達している製品」との事である。
これは充分信頼できる技術と経験を持つ人物の言葉であるから、そのまま信用できる物と思う。しかし私自身はこの製品を使った事がなく、自分の言葉で評価をできない以上、現段階でこれ以上具体的な内容について記述する事はできない。いずれ使用レポートを報告する事もあるかと思うので、私の評価はその時まで保留しておく。
私自身がこの問題にどう対処してきたかと云えば、数年前までは問題自体が発生しなかった。
本稿でも書いてきた通り、ある時期まで私はサーフェイサーと云う物を使わず、下地塗装は最初から白の塗料を吹き重ねる、と云う方法を採っていたのである。この場合、用途がサフ替わりな訳だから、塗膜その物がかなりの厚みを必要とされる事になる。つまり、塗装前の下地が何色であろうと、どんな色ムラがあろうと、Mr.カラーの白でもそれらを充分に覆い隠せるだけの厚塗りが前提になっていたのだ。
しかしこの方法はいくつかの問題に直面し、皆さん御存知の通り、レジンキット、インジェクションキットを問わずサーフェイサー使用が基本となって数年になる。ここでも運良く、「Mr.ホワイトサーフェイサー1000」を4kg缶で入手する事ができた為、単純な白下地が欲しい場合にはこれをそのまま使用しているので、これまでは大きな問題には直面せずに済んでいた(通常の場合は、白サフに数%の黒を混ぜてグレーサフとして使用している)。
しかし「インテグラル」の作例を手掛ける事になって、急に「隠蔽力があって薄く仕上がる白」の必要に迫られる事になったのである。
実はそれ程必要は感じなかった時期から、塗料に関する実験の一環として「濃い白」のテストも何パターンかは済ませてあった。そして一連の実験の結果として自分なりの解答も出してはいたのである。
この目的に求められる性能は、「できる限り薄く、かつ精密な塗膜で、下地を充分に隠蔽できる白」と云う事になるのだが、これは言ってしまえば通常の白に比べて、「顔料濃度」を濃くすれば良い筈である(FINISHER’S製品もおそらくこう云う方向性の製品だろうと予測している)。
私は以前から模型用塗料では出せない原色系の色については、画材として売られている顔料をクリアに溶いて塗料を自作する、と云うのを良くやっていたのだが、その顔料の中には「チタニウム・ホワイト」もあった。これを通常に比べて多めに混ぜれば「濃い白」はできる筈である。
早速試してみると、普通に使う事ができるし、塗膜にも問題はないように思える。梨地にもならずツヤも出せるし、隠蔽力に関しては正に最強、と云う白ができあがっていたのである。
これについては作ってから一通りのテストをしただけで、特に用途もなかったのでお蔵にしていたのだが、今回インテグラル作例に臨むにあたり、これの必要性が急に発生したのである。
インテグラル作例用として渡されたパーツは、1/144としてはかなりの部分までパーツ分けされている物ではあるが、ここ数年作り続けてきたMGとは違って、塗り分けには当然マスキングが必須になる。小松原造形である以上、塗膜の厚みによってエッジがダレるなんて事態だけは出来る限り避けたい。レジンキットである為、サフにはグレーの物を使わざるを得ない。等々の事情が重なった事から、結局インテグラル作例のロールアウト・ガンダムはこの白を使って塗装をした。
しかし、本当に必要に迫られて作った塗料ではなかった為に、細かい点において煮詰めが足りない、と云う事を本番作業を通じて実感する事になったのである。
隠蔽力自体は充分すぎる程なのだが、顔料濃度が上がっている事により、予想以上に塗料の粘度も上がっていたのだ。通常私は塗料を4倍(塗料1:シンナー3)に希釈するのだが、今回のネタは久々の1/144、しかも「あの」小松原造形なので、精度を重視して塗料の希釈度を5倍にしていた。しかし、それでもいざこの白を吹いてみると、明らかに普段の4倍希釈並みか、あるいはそれ以上の粘度なのである。また、テストの時点ではちゃんとツヤが出た物が今回は僅かながら梨地っぽい塗膜になってしまうのだ。どうやらテストの際には、無意識にツヤを出そうとして結構厚めにふいてしまっていた事に思い至る(私に塗装をさせると、放っておくと必ず塗りすぎになる。ついつい塗りツヤを追ってしまう悪い癖があるのだ)。
これは本番塗装の段階で気付いた事なので、再テストの時間もないし、かと云っていきなり本番用塗料の希釈度を変更して、予想外の不測の事態を招く事だけは避けなければならない。仕方なくそのまま作業を進めたが、結果として当初こちらが目論んでいたより、若干シャープさに欠ける結果になってしまったのでは?と云う反省が残ってしまったのだった。
まぁ、これは希釈度をさらに上げれば解決する問題だと思うので、この「白顔料大量ブチ込みホワイト」はその気がある方には試しみるだけの価値はあると思う。とりあえず隠蔽力は最強である。
画材用のチタニウム・ホワイト顔料は、大き目の画材店に行けば取り扱っている筈だし、価格も安い。
注意点としては、チタニウム・ホワイトには「ルチール」、「アナターゼ」と云う2種類のタイプがある事。ラッカー系等、油性のクリアに混ぜる場合は「ルチール」を選ぶ必要があるのだが、何も表記されていない場合は大抵「ルチール」タイプのようである。
また、実際に作る上では、ダマの解消はかなりやっかいな問題になる。少なくともMG、FGパールのようにすんなりとは分散してはくれないのだ。私はコーヒーのフィルターでろ過しているが、これはある程度の量を一辺に作るのでないと色々と問題が出るし、時間もある程度かかる事はお断りしておく必要があるだろう。
以上のように、この自作「特濃」ホワイトは充分実用レベルではあるのだが、ロールアウト・ガンダムの塗装作業中から、他の可能性も試してみたいと思い始めていた。
「顔料濃度」を高くしたいと云う目的の為に、「顔料をさらに追加する」と云うのが上記ホワイトにおいて選択した方法だった訳だが、逆に、「樹脂成分を減らす」と云う方法もあるのではないか?と思ったのである。幸いと云うか、白と云うのは通常使用されるソリッド色の中ではダントツに重く、下に沈みやすい顔料である(その色に白が混ざっているかどうかは瓶の底を見れば一発で判る、と云うのはこの性質を利用した物)。
私はいつも書いている通り、エアブラシ用の塗料は希釈した状態のままでPP瓶(アイボーイ)に入れて保存しているのだが、これをやると白と云うのは数日で底に沈んでしまうのである。上の方も一応白くなってはいるのだが、殆ど上澄みと言って良いレベルの濃度。この上澄みの部分だけを取り除けば、顔料濃度を濃縮する事ができる筈である。
丁度しばらく使わないで放置しておいた作り置きの白があったので、早速試してみる事にした。なるべく沈殿をかき混ぜてしまわないよう気を付けて、上澄み部分をスポイトで静かに吸い取り別容器へ、と云うのを元の量の半分になるまで繰り返す(なお、この半分と云うのは別に根拠がある訳ではない、暫定的な数値である)。
先日の教訓を活かし、濃縮された塗料を4倍希釈から5倍希釈相当になるようにシンナーを追加し、テストしてみた。半分まで減らす、と云うのはやり過ぎに近いかもと思っていたのだが、隠蔽力は顔料オーバードープタイプに比べると若干劣る感じ。しかし粒子は充分細かく、梨地になってしまう事は全くないのが特徴である。これならもっと濃縮度を上げても大丈夫かも知れない。
この方法は大きめの容器とスポイトさえあれば、後は希釈した塗料を放置して1週間かそこら経った所でスポイトを使って上澄みを吸い取るだけなので、興味のある方はぜひ一度試してみる事をお薦めする。白塗料を多量に消費する事にはなるかと思うが、幸いと云うかMr.カラー40ml入り大瓶も発売されたばかりなのでこれを利用しない手はないだろう。
唯一の問題は取り除いた上澄み塗料の処置であるが、現状私にはこれの再利用方法は思いつかない(これをLEDの半透明白に使おうとは思わないし…)。
ビスマスパール (Bismuth Pearl)
模型用塗料に限らず、現在一般小売流通で入手できるパール顔料は、その殆ど全てがチタニウム・マイカ系パールと言って良い状況にあると言える。これは、チタニウム・マイカ系パール(以下マイカパールと表記)が持つ、「毒性がない」、「耐光性を含め、耐久性が抜群に高い」、「安価に供給される」と云った特徴による所が大であり、これらの総合点によって、それ以前からあった数種のパール顔料を殆ど駆逐して市場をほぼ独占するに至った。
しかし、これはあくまで「総合力」による勝利であり、各論においては必ずしもマイカパールがベストと云う訳ではないのである。これはマイカパールだけを使っている状態では判りにくい事ではあるのだが、一般的に指摘される欠点としては、「反射力が弱い」と云うのがあるのだ。
古くから使われたグアニン系パール(魚鱗パール)、最初に合成パールとして普及した鉛パール、合成パールとしては最初の無毒性素材であるビスマスパール。これらのいずれと比較してもマイカパールは反射力において及ばないとの事である。グアニンパール、鉛パールについては実際に使用した事はないので伝聞になってしまうが、ビスマスパールがマイカパールに比べて明白に反射力が強い事は確言できる(ペイントショーで聞いた話によると、鉛パールはビスマス以上の反射力だそうである)。
これは顔料となる粒子表面の平滑性による差がその大きな理由なのだそうだ。
マイカパールのベースとなるのは天然の雲母を微細に粉砕した物なのだが、この工程から推測できる通り、その表面は拡大してみるとミクロンオーダーではかなりの凹凸がある物になる。これは当然不要な乱反射を引き起こし、結果としてトータルでの反射率が下がってしまうとの事である。これに対して結晶として生成されるビスマスパールは結晶表面の平滑性に優れる為、それが高い反射力に繋がると云う事らしい。
鉛パールは、パール顔料としての性能は高いのだが、毒性がある事から現在では市場に出回っていない、との事である。グアニンパールは原料が天然素材(太刀魚だったかの魚の鱗)である関係から価格が高く、化粧品等、高級用途に一部使われるだけと云う状況らしい。
ではここからは本題のビスマスパールについて説明していく事にする。
マイカ系パールは、名前の通り雲母(mica)の表面に二酸化チタンや酸化鉄などの酸化金属を薄膜コーティングした物であり、言ってしまえば鉱物片をそのまま顔料にした物であると言える。
これに対してビスマスパールは、オキシ塩化ビスマス(bismuth
oxychloride)と云う、ビスマス(蒼鉛)をベースとした金属化合物である。定量的な物性その他については私は専門ではないし、ここで述べる必要もないと思うので、ここでは立ち入らない事にする(と云うより立ち入れない…)。
以下は実際に塗料として使用した場合の違いについて述べてみる。
まず、材料としての取り扱いに大きく関ってくる事だが、マイカパールが粉体で供給されるのに対して、ビスマスパールは通常、有機溶剤によってペースト状に分散された、ディスパーションの形で供給される。化粧品用途などの場合は粉体として供給される事もあるらしいが、凝集を避けるには特殊な設備が必要になる為、一般用途としてはディスパーションとして流通するのが普通だそうである。塗料として使用するには、マイカパールと同じく各種塗料(主としてクリア)に適量を溶いて使用する。
実際に使用してみた印象としては、前にも書いた通り反射力の強さがマイカパールとは大きく異なった印象を与える。白地に乗せて基本のパールホワイトとして使うだけでも、同条件でのマイカパールに比べて反射が強い為か、より、「真珠っぽい」印象になる。また、「深み」も白パールとして使った場合の特徴として挙げられるだろう。
そして、ビスマスパールの特徴は、黒、グレーと云った、「黒味の混ざった下地」の上から使用した場合にとても強く現れる。反射力の強さのせいで、下地に少しでも黒味が混じると、それが銀色の金属光沢として発色するのである。マイカパールでも黒地の上に乗せるとある程度の金属光沢は出るのだが、反射力が弱い為にどうしても金属感の弱い、ぼやけた感じのパールシルバーにしかなってくれないのである。
マイカ系パールによるシルバーの具体的なイメージとしては、模型用水性塗料におけるメタリック色を思い浮かべて貰うと判り易いかと思う。
現在の模型用水性塗料においてはメタリック色には金属顔料ではなくマイカパールが使われている(水性塗料では金属顔料が酸化してしまう為である)のだが、その為、水性塗料のメタリック色はどれも少しぼやけた印象のパールシルバー、パールゴールドになっている。「水性のメタリック色は使えない」とする人も多くいる所以である(余談ではあるが、今年のペイントショーでは、「水性塗料対応」を謳ったアルミシルバー顔料を出品している金属顔料メーカーがあった。また、水性エマルジョン塗料の分野でも、樹脂の乳化状況を改善し、乳化した樹脂の粒度を微細化する事により、乾燥性、塗膜強度等について著しく性能の上がった水性塗料も既に他ジャンルでは実用化、普及が始まっているのを知る等、模型用塗料の遅れを痛感させられた次第である)。
これに対してビスマスパールによるメタリック表現は、通常の金属顔料メタリックよりも金属感が出せる場合さえある。Mr.カラー#8に代表されるメタリック・シルバーは、吹きっ放しの状態であればかなりの金属感があるのだが、表面の保護やツヤ出しの為にクリアコートをすると、途端に金属感が失われてしまい、濁ったメタリック・グレーと云った印象になってしまうのである。これは金属顔料特有の「リーフィング」と云う性質による所が大きく、鱗片状になった顔料の並びが上からクリアをかける事によって乱されてしまう事で起きる現象である。
これに対してビスマスパールの場合は、顔料にリーフィング性がない為、クリアコートによって金属感が変わる事はないのである。HJ誌2002年2月号MGキュベレイ作例記事でもカラーピースを掲載したが、Mr.カラー#8シルバー、黒地にマイカパール、黒地にビスマスパールの3種類にそれぞれクリアコートをした物の中では、ビスマスによるシルバー表現が一番金属光沢を出せていると思う。個人的には、メタルカラーとメタリックシルバーの中間くらいと判断している。
また、このビスマスパールによるシルバーをベースにクリアで着色する事で、様々なメタリックカラーのバリエーションも作る事ができる。特にゴールド表現においては、現状では「ALCLAD II」による表現に次いだ金属感が出せる方法だと思っており、HJ誌2002年9月号掲載のH沢氏製作によるオージ改造オージェはこの方法で金色を表現した物である。ちなみにこの号では偶然、私の事が言及される記事が3つ重なる事になった。H沢氏の記事では色彩設計から塗料調合までを担当。伊世谷氏のオージ、インテグラル記事については別稿を参照されたい(つか作例やれよ、オレ…)。
ここまでは長所についてのみ述べてきたが、そんなに素晴らしい素材なら何故普及していないのか?と云う疑問が出てくるのは当然だろうと思う。ここからはビスマスパールの欠点について述べる事にするが、この場合それは次の一点に集約されると言って良いだろう。
「ビスマスパールは紫外線に曝されると変色する」
らしいのである。
具体的には、紫外線に曝された部分が黒ずんでくるのだそうが、幸か不幸か私はまだその現象にはお目にかかっていないので、詳しく述べる事はできない。
先述したペイントショーではパール顔料メーカーの担当者と会話をする機会があり、色々と質問もさせて貰ったのだが、ビスマスパールについて、「白地に塗って真珠色として使いたいのだが」と聞いた所、「う~ん」と唸った後、「それは殆ど耐久テストの様な使用条件ですね」と言われてしまった。
なお、この黒変現象は紫外線暴露によってのみ起こる物であり、それ以外の原因による劣化は一切起こらない、との事であった。つまり、通常は光のあたらない場所にしまっておき、必要のある時だけ表に出す、と云う風にすれば一応変色は避けられる事にはなる。しかしこれでは甚だ実用性に欠ける事は否定すべくもないのも確かではある…。
昨年、当展示会向けに製作したキュベレイは正しくその「耐久テスト」状態な訳だが、HJ2002年2月号掲載に合わせ、ボークス新宿SRにて1ヶ月程ショーケース内に展示して貰っていた。
一般に商店のショーケースと云うのは、至近距離から蛍光灯の光を浴び続ける構造になっている。蛍光灯の光は白熱灯に比べて多くの紫外線を含んでおり、これに至近距離から照らされ続けると云うのは耐光性テストに使えるのではないか?との目論見もあっての事だったのだが、現在に至るまでキュベレイの白パール部分には変色は一切見られない状態である。
ただ、ボークスSR側の説明によると、ボークス商品は普段から蛍光色やクリアカラーと云った耐光性の弱い材料を多用した完成品を展示する機会が多い為、ショーケースもそれに配慮した作りになっているとの事なので、期待(?)
した程の紫外線は照射されなかったのかもしれないし、ボークスSRから引き上げてからは、各イベントで展示する際以外には箱の中にしまいっぱなしなので、単純に「1年変色しなかった」と言える状況ではないのも確かである。これについては現段階で言える事はここまで、続きは経年変化による変色を実際に確認してからになる事をご容赦戴きたい。
先行して開発、商品化されていたビスマスパールが、後発のマイカパールに大きく水をあけられる事になった最大の理由は、正にこの「耐光性に劣る」点にあった。屋外使用が前提となる用途一切に使えない、と云うのは塗料原料としては致命的と言わざるを得ないだろう。現在は、屋内使用を前提とした用途、それも比較的商品サイクルの短い物(例えば携帯電話等)に使われる事が殆どだと云う事である。
マイカパールは前にも述べた通り、「酸化金属でコーティングされた鉱物片」であり、光による変色と云うのはおよそ考慮する必要がなく、耐候性にも優れている。これは屋外使用が大前提となる自動車塗装にはうってつけの性質であり、その上低価格な材料でもある。上記のような理由で、それまで彩度の高いメタリック色が使いたくても使えなかったデザイナー達が、「安価でアピール度の高い色材」としてマイカパールを歓迎したであろう事は現在の状況を見ても想像に難くないのである。
ある時期以降、自動車、それも低価格帯普及車の色バリエーションにパステルメタリック系が増えているのに気づかれた方もおられると思う(最近では自動車だけでなく、家電製品にも同じ傾向が見られる。最も顕著なのが携帯電話であり、メタリック系の色でない物の方が珍しいくらいである)。勿論それ以前からメタリック系の色はあった訳だが、それらは金属顔料シルバーをベースにしていた事から彩度を上げにくく、有彩色では暗色、濃色の物が殆どだった。実際、マイカパール普及以前には金属顔料シルバーの黒味はメーカーの悩みの1つだったらしく、自動車用塗料のカタログを見ると、シルバーのバリエーションの中には必ず「ホワイトタイプ」と呼ばれる、アルミ顔料としての範囲内で出来る限り黒味を廃した、有彩メタリック色ベース専用のシルバーがあるのを見ても伺う事ができる。
ペイントショーで聞いた話では、自動車メーカーからも、「何とかしてビスマスパールを使いたい」と云う要望はあるのだそうだ。
前述の通りマイカパールはシャープな金属感表現には向いていない。マイカパールの内かなりの割合がパステル系の色として使われている理由の1つはこれであろう(もう1つの大きな理由は、工程を減らす為にパール塗料を直接着色している為だろうと想像している)。
一方、金属顔料には黒味の問題があるし、リーフィング特性をコントロールする必要性と云う問題点もあるらしい。基本的に鱗片状になっている金属顔料はその塗膜の中での並び方次第で大きく色味や印象が左右されるのだが、大量生産ラインでこれを安定して達成するにはそれだけ余計なコストが必要になるので、できればそういう心配の少ない素材が欲しい、と云う事らしい。マイカパールでも金属顔料でもなく、ビスマスパールでなければできない表現と云うのは確かに存在する、その可能性をメーカーも模索しているのだろう。
顔料メーカーとしてもこうした要望にはできるだけ応えて行きたいとの話だったが、自動車塗装はビスマスパールが最も不得意とする分野なのも確かである。当面の対策としては、「最初から黒味を混ぜておき、変色しても目立たない様にする」と云う方向で試しているそうである。根本的対策とは言い難いが、その分私たち一般ユーザーにもすぐ実践できる対策なのも事実ではないだろうか?模型塗装に比べれば、自動車塗装と云うのは遥かに過酷な条件な訳で、そう云うジャンルでまがりなりにも対策として効果があるならば、模型塗装であれば実用レベルでの対策になりうるのではないかと思っている。
具体的な対策としては、主な用途としてシルバー、ゴールド等の黒味を含んだメタリック色を推奨する、と云う事になるだろう。もしそれ以外の、黒味の混ざらない系統の色として使用したい場合は、基本的にオーバーコート法を推奨する。ビスマスパール層の上に色を乗せる事により、少しでも紫外線をカットする効果を期待しての事である。
また、着色パール法では粒子が目立つ、と云うのもオーバーコート法を推奨する理由の1つになるだろう。私が入手、使用し、イベントでも販売したビスマスパールは、知り得た限りで一番粒子の細かい物ではあるのだが、それでもMG、FG等、マイカパールで一番細かい物に比べると粒子は大きい。カタログデータでは、旧MGパールと同等程度の粒径なのだが、反射力が強いせいで粒子が強調されるのか、見た目の印象では旧FGパールくらいの粒度に見えるのである。
ビスマスパールによる白パールは、安全性を考えれば推奨はできないのだが、一度「あの色」を見てしまうと使いたくなるのは人情と云う物である。
同様に退色し易い色材に蛍光色があるが、こちらは結構平気で使われている。これと同じ様なつもりで使う覚悟なら、保管にさえ気をつければ最強の白パールなのは間違いない。実際には、光にあてさえしなければ変色しない分、蛍光色よりはマシだとも言えるのだ(蛍光物質は化学的に不安定な為、紫外線による変化以外に計時退色もある)。
なお、いずれの場合であっても、必ず表面をクリアコートする事をお奨めしておく(白パールでは必須だろう)。程度の差はあれ、大抵のクリアには紫外線遮断効果はあるので、気休め程度としてもやらないよりは遥かにマシである。
イベント販売の度に「一般での販売予定はないのか?」と云う質問を戴く。残念ながら現状の体制では難しいと言わざるを得ないのだが、もっと広く使って貰いたいと云う願いがあるのも確かである。どなたか販売元になってやろう、と云う太っ腹な方はおられないだろうか?(マジ募集。1ロット2000個買取りで御座います)