欠陥模型大百科・新風波濤版

ENCYCLOPEDIA MODELLICA  “nouvelles vagues” version
Private Edition Ver.7.1.1

石川雅夫(MMI/LIMEGREEN)
第9回モデラーズ・スペース展示会(1998年)

[後フォロー](After Care)

 「一年間のご無沙汰でした」と云う事で今年も例年通り、前回紹介した製品情報等のUP-DATEと、その後の新製品等についてのこのコーナーから始める事にする。
 
今年のM・スペース内のニュースと云えば先ず、S々木氏の年内会長引退宣言があるが、それ以上に驚かされたのが、ペット・ショップのH田兄弟が脱サラを決意し、川崎駅前に模型店「フラグシップ」を開店した事であろう。不況の風も一層厳しさを増すこのご時世に、正に嵐の船出を敢行した両氏の勇気には無条件で頭が下がる。唯、この項で「フラグシップ」の事を取り上げた理由はそう云った身内への応援と云った物だけでは無く、以前の本稿とも大きな関わりがあるのだ。 
私がかつてこのコーナーで紹介した製品と云うのは、かなりの割合でその後店頭で見かけなくなってしまっているのだが、そう云った幻の工具の数々を、この店ではわざわざ捜し出して取り扱ってくれているのである。「DL-400」や「D-300」等のデザインナイフ等類は勿諭、かなり以前に紹介したものの、その後どこでも見なくなり、とっくに廃版になった物と思っていた「NTスモール・ドレッサー」まで置いていると云うから驚きである。
 
店の方針として、工具・材料類を充実させたいと云う事で模型取次の物だけでなく、各業種の問屋を直接あたって仕入れているとの事で上記以外にも「使える」工具・材料等が目白押しである。東京・神奈川エリアの読者の方々は、ぜひ一度この「フラグシップ」を訪れて見て欲しい。[ 註1 ]

その後、場所の移転はあったものの、現在もフラグシップは営業を続けています。店舗経営だけでなく、数々のオリジナル造型材料の供給元として活躍を続けているのは皆さんもご存知の事と思いますが、改めてフラグシップをお引き立てよろしくお願いします。

次に、毎度お馴染み新製品紹介であるが、先ず以前にも紹介したKDS-Hiのデザインナイフが今年ニューモデルを出したので、それを紹介したい。
 
これは東急ハンズ新宿店で見つけた物で、旧ヴァージョンに比べてかなりボリューム・アップしているが価格はそのまま(ハンズで320円)である。具体的には、柄がかなり太くなっていて、その中に替刃を納める事が出来る様になった事、そしてグリップ部のラバーが、旧ヴァージョンではズレ易かったのが、刃を締め付ける金具で同時にラバーも押さえる様にした事でズレが無くなった事が大きな違いと言える。唯一、柄のお尻をインレタ等のバニッシャーに使える、と云う機能が無くなった以外は、全面的なヴァージョン・アップと言って良いと思う。
 
そして、今年のデザインナイフのイチ押しが、NTから出た「D-400G」であり、私個人的には、デザインナイフの決定版がついに出た、と云うぐらいの惚れ込み様である。
 
今年になってNTは「G」シリーズと云う試みを始めており、それは一言で言うと、従来あったカッターナイフのラインナップを、グリップ部のプラスチックで出来た部分をダイキャスト(多分アルミだと思う)に置き換えたバリエーション・シリーズであり、品番の最後に「G」がつけられている物である(実際には「GP」である事が多く、私が買ったのも「D-400GP」なのだが、この「P」はNTの場合、単に両品のパッケージの違いを示すだけなので、この「P」は有っても無くても同じ)。
 
NTのデザインナイフで一番ポピュラーだったのがD-400で、こいつの「G」ヴァージョンと云う事になる。前記のKDS-Hiが刃先キャップ以外は全て新設計だったのに対して、こちらはグリップ部が変わっただけなのだが、こいつがイイ! NT党を標傍する私であるが、実はD-400はキライだった。
 
刃を衛えるチャック部は申し分ないのだが、とにかくグリップ部が最悪で、材質・デザイン・グリップ感、どれを取っても好きになれなかったのだ。それがこの「D-400G」では私のキライだった所だけが見事にリファインされていて、材質が変わっただけではなく、あの野暮ったいデザインもすっきりとシェイプ・アップされ、全く文句なしと云うのが私の感想である。 
私は、新宿の世界堂で買ったのだが、ここ以外にも数ヵ所でこの「G」シリーズは見かけた事があり、割と入手し易いと思うので、お勧めする次第である。[ 註2 ]

これは現時点においても私の主力であり続けています。通常のデザイン・ナイフとして使用しているのは勿論ですが、最近ではその場その場の作業において緊急に必要となる工具を即興で自作する機会が多く、その際のホルダーとしてもなくてはならない存在です。

そして最後に、久しぶりに帰って来た「L刃アートナイフ情報」である。読者諸氏はとっくに忘れていた事と思うが油断してはいけない、日本L刃化計画はその後も着々と進んでおり、こうして又、忘れた頃に天災の様にやって来るのである。
 
オルファの「L刃アートナイフ」が廃版になって以来、何とかそれに代わる物を探して今まで「タミヤのカッターのこ」を改造したり、「タジマのダプルL刃」や「NTの短刃」を、デザインナイフに「へっへっへ…と笑いながら穴を拡げて無理矢理突っ込」んだり、と色々な事をして来たが、今回は普通のL刃を無改造で取り付けられる物を発見したので、早速紹介する次第である。
 
これは新製品と云う訳ではなく、実の所普通のカッターですらない。「タジマツール」から出ている「プラスチック・カッター(品番LC-701)」と云う、いわゆるP-カッターである。
 
通常のカッターには、ご存じの通り国際規格があって、同じタイプの物ならば各社間でも替刃は共通で互換性があるのだが、どうやらP-カッターについては共通の規格が無いらしく、各社でそれぞれ独自の規格の物が作られている。そして、タジマのP-カッターの替刃と云うのが、厚さと幅が通常のL刃を一枚折り取った物と大体同じである為(L刃が厚さ0.5mm、幅8.65mm、それに対してタジマのPカッター刃は、厚さ0.65mm、幅8.75mm)、このホルダーは全く無改造でL刃をきちんと衛える事が出来るのである。
 
以前「タミヤのカッターのこ」を改造した時には刃が潜り込まない様にストッパーを付けるのに苦労したのだが、この「プラスチック・カッター」では、ズレ止めの穴が替刃に開いていて、本体側にそれが嵌まる丸い出っ張りがあるので、それがそのままストッパーになってくれる。唯、その為、刃が余り深く入らないので、強度的に不安があったのだが、実際使ってみると、オルファの「L刃アートナイフ」とも、実用上殆ど強度的な差は感じられないので、この点も安心してお勧め出来る。問題点と云えば、先ず形状がPカッターとしてデザインされているので、多少ごつく、細かい作業向きに見えない事があるが、重量的には軽いので、後は慣れの問題だと思う。
 
最大の問題は、毎度の事だが取り扱い店が少ないのである。今まで都内では見た事が無いし、私の行動範囲内のDIY店でも一店しか置いていない(だから今年になるまで存在する事すら知らなかった訳だ)、ここは一つ「フラグシップ」の努力に期待したい所である。
 
読者諸氏にはその努力を支える意味でも「フラグシッブ」を応援し、必ずしもここに紹介した工具類に限らず「フラグシップ」をご利用して戴きたいとお願いする次第である。近県の皆様は、くれぐれも「フラグシップ」をご贔屓に。

[水性ウレタン](Aqueous Poly-Urethane)

 
前回はツヤ有りモデルの「クリアがけ」について色々と書いたが、その中で、「デカールの上からのクリア塗装はかなりのリスクを伴う」と云う主旨の内容を述べた。その後これに関して、「それはラッカー系のクリアを使った場合で、ウレクン・クリアならば事情は違うのではないか」との質問を受けたので、それに対する答えを中心として、二液性ウレタン・クリア、及び最近発見した「水性ウレクン・クリア」なる物について書いて見たいと思う。
 
ここ数年、一部のカーモデラー等の間で二液性ポリウレタン塗料がもてはやされ、特にデカールを侵さないクリア、として紹介する記事が各摸型誌・なかでも小○誠氏を中心とするモデ○カ○レ○サ○ズ(特二名ヲ秘ス)誌などに載る事が有り、一般のモデラーにも、「ウレタン・クリア」=「デカールを侵さない」と云う認識が行き渡っている。確かにウレタン塗料の性質をよく知った上で、理想的な条件の元で使用した場合にはそれは間違いでは無いのだが、事はそう簡単では無いのである。
 
さて、本来ならここで、「ウレタン塗料とは何か」について、ウレタン結合がどうしたとか、イソシアネート基が転んだとか、分子架橋密度が鼻をかんだ、と云った話をするべきなのだが、幸い化学については専門家のY崎氏が、第6回展示会のパンフでそう云った事は全て解説してくれているので、読者にはそれを読んでもらう事にする(持っていない人は悪しからず、いつもの事である)。[ 註3 ]

展示会パンフ原稿の採録と云う性質上、こう云う記述がどうしても出てきてしまうのですがご容赦ください。本当ならば件の原稿も何らかの形でアクセス出来るようになればベストではあるのですが…。

 
先ず、ウレタン・クリアは本当にデカールを侵さないのかであるが、原液の状態であれば、確かにその通りと言って良いだろう。しかし通常モデラーが所持する0.3mm前後の口径のエアプラシでの使用を考えた場合、シンナーでの希釈は避けられない、そしてこのシンナーの成分が大問題なのである。
 
メーカーによって多少の差はあるが、二液性ウレタン塗料用のシンナーは、殆どがキシレン及ぴトルエンを主成分としている。これらはどちらも、下地となる塗膜はおろか、その下のキット自体の樹脂すら侵してしまう強い溶解カを持ち、又、それぞれの沸点が、トルエンは100~120℃、キシレンは135~145℃といずれも中・高沸点型溶剤であり、これはつまり蒸発速度が小さい=乾きが遅い、と云う事を意味する。
 
すなわち、ウレタン樹脂自体は数十分で硬化しても、その塗膜はこれらの有機溶剤をたっぶり閉じ込めていて、それが抜け切るまでには結構長い時間(恐らく数日単位、あるいはそれ以上)がかかると云う事であり、その間、デカールを含めた下地全体がその侵食を受け続ける訳である。
 
最近では、缶スプレー型の二液性ウレタンもあり、これはかなり原液に近い状態なので、溶剤分による侵食は、それ程問題にはならない。唯、その分スプレーされる粒子はかなり粗く、精密さを要求される模型塗装に向いているとは、少なくとも私には思えないし、Y崎氏も書いていた通り、一回で全てを使い切らなけれぱいけない等、使い勝手もよろしくない(冷凍庫内で反応を遅らせて保存する、と云う荒技もあるらしいが、そこまでして使うか?と云うのが、私の正直な感想)。
 
その他の諸条件を考え合わせても、二液性ウレタン・クリアと云うのは、現状では摸型塗装用としてはお勧め出来る物では無い、と云うのが現時点での私の意見である。[ 註4 ]

最近では模型用途として販売されている2液性ウレタン・クリアもいくつかあり、中でもフィニッシャーズ・カラーや精密屋のウレタン・クリアはカーモデラーだけでなく、キャラクター系モデラーにも愛用者が出てきているようで、性質を熟知した上でならある程度の精度を持った塗膜に仕上げられるレベルの性能を持っているとの評価を耳にします。しかし、毒性その他の点については本文で述べた問題点は大きく変わってはいないと思われますので、ご使用の際には充分な注意をされる事を強くお奨めします。

さて、ウレタン塗料と言えば二液反応型、と云う常識があるが、一液型ウレタンと云うのも以前から何種類か存在する。ノーマルな溶剤揮発型の物から、湿気反応硬化型の物までいくつかのヴァリエーションがあるが、大抵の場合、我々モデラーの常識からすると死ぬほど乾燥が遅かったり、取り扱いに注意が必要だったりと決して使い易い物では無かった。そんな事で、一液、二液を問わずウレタン・クリアと云うのは模型には使えない物と思っていたが、そこはまだまだ井の中の娃、大海にはやはりいろんな魚がいる物で、先日近くのDIY店で普段は立ち寄らないコーナーに回ってぶらぶら眺めていると、「水性ウレタン」なる塗料を見つけたのである。
 
恐らく使えないだろうと思ったが、予てから良質な水性クリアを探していた事もあり、ダメ元で一番小さいビン(それでも100cc入りで780円、この程度の冒険でためらっている様では新ネタの開拓は出来ない)を買って見た所、試して見ると予想外に便えるのである。
 
現在水性塗料と言えばその殆どが水性エマルジョン塗料であり例えばグンゼの水性ホビーカラーにしても、クミヤのアクリルカラーにしてもどちらも水性アクリル・エマルジョン塗料である。この「水性ウレタン」もご多分に漏れず水性エマルジョンであるが、こちらは水性ウレタン・エマルジョン塗料である。この2つがどう違うのかと聞かれても、私にも「樹脂が違う」としか言いようが無い。これ以上の詳しい事は、それこそ「Y崎氏に聞いてくれ」である(実際、こう云った内容は、私の様な三流私大の経済学科を6年もかかってやっと卒業した程度のベタベタの文系野郎より、Y崎氏の様な理系屋さんに任せるべき物なのだが、彼ら堅気の衆にはただでさえ自由になる時間が少なく、仕方なくヤクザ物の代表として、こうして私がでしゃばっている訳である)。[ 註5 ]

その後聞いた話ですが、ウレタンの場合、水性塗料だからと云って必ずしもエマルジョン塗料であるとは限らないのだそうです。これは「エマルジョン」と云う言葉の定義にもよりますし、私自身それ程きちんと理解している訳ではないので、この場ではここまでの記述に留めておく事にさせて戴きます。

この塗料は本来、建築内装用に使われていた為、私達モデラーの目に留まる事が少なかった物と思われ、主な用途としては、近年、なうなやんぐのぼっちゃんじょうちゃん方に大人気のフローリング床の仕上げ塗装用に用いる物らしい。
 
今まで水性アクリル塗料を模型に使う場合、大きな問題となるのが塗膜の耐久性だった。塗膜自体がもろく、又、経年変化で湿気を吸ってベタつく事がある等、他の模型用塗料に比べても耐久性は難アリと云わざるを得ないのだが、この「水性ウレタン」に関してはそういう問題は無い物と考えてもらって良いと思う。
 
勿論、私自身がこの塗料を試し始めてからまだ半年程度しか経っていないので、とてもタイム・プルーフされた、と言える様な状況ではないが、その本来の用途を考えると、耐久性の無い塗料が床面塗装に使われる筈が無い、と考えても決して的外れでは無いと思う。
 
使用にあたっての希釈剤には当然水が使えるが、私はアルコールで希釈している、やはり模型用塗料として使う場合はあまり水を加えると表面ではじかれ、かなり塗りにくくなるのだ。又、Y崎氏によれば、水で希釈するよりもアルコールの方が、原液に含まれる水分の抜けも良くなるだろう、との事で現在の所はアルコールで二倍から三倍程度に希釈している。
 
さて、肝心の使い勝手だが、先ずこれについては、定量的な記述が出来る物では無いので、多少なりとも曖昧な表現に頼らざるを得ない事は最初にお断りしておく。始めに乾燥であるが、水性エマルジョンである以上、Mr.カラー等に比べれぱ当然遅い、しかしこれは実用上問題になる程の遅さではなく、トップ・コート用クリアと云う用途からすれば、ツヤが出し易くなると云う利点である、と考える事も出来る。
 
実用上間題があるとすると、いくらアルコールで希釈ずる前提とは云え、水性である事に変わりは無いのでプラあるいは摸型用塗料の上から吹いた時に、表面ではじきが起こり易い事がある。これは特に吹き始めに起こり易いので最初の内は余り表面を濡らさない様にして、それから徐々にニードルを拡げて行く様心掛けた方が良いだろう。
 
次に乾燥後の塗膜であるが、これもMr.カラーに比べれば多少は柔らかい。唯これも又、ツメを強く押し付けてやっと跡が付く程度の物だし、研ぎ出しも充分出来るので、実用上問題は無いと言って良いと思う。かえって、固すぎるクリアの場合、研ぎ出しでキレイなツヤは出せるが、後々塗膜にヒビが入る事があるので、そう云う心配をしなくてすむ、とプラスの方向に考える事にしている。
 
そして、デカールに対する侵食性の問題だが、よく聞く、「デカールがヒビ割れた」とか、「端の部分が溶けた」と云ったトラブルは今の所、皆無である。デカール自体に対する侵食性は殆ど無い、と言って良いだろうが、唯、予想に反して一部のデカール、特にマルボロ・マークに代表される蛍光色を使ったデカールについては、インクの滲みが見られた。しかも、このテストをした時は、原液、水で希釈した物、アルコールで希釈した物の3種類でテストを行ったのだが、意外な事に原液のまま吹いた物が一番滲みがひどかったのである。
 
これは粘度の高いまま無理矢理吹き付けた為に厚塗りになり、その結果、表面だけが乾燥し、塗膜の中に多量の水分が閉じ込められ、それが長期に渡って抜けずに残った事によると思われる。
 
これから解る事は、デカールヘの侵食性と云うのは、溶剤の溶解力だけが問題なのでは無く、その溶剤がどれだけの期間塗膜の中に留まるかにも大きく左右される、と云う事である(私が今まで試した模型用トップコート・クリアの中で一番と評価しているのは、「ホビーショップGT」と言う都内の小さな模型店が出している、「フィニッシャーズ・カラー」と言う塗料の中の、「オート・クリア」と言うラッカー系のクリアであるが、これの専用シンナーと云うのは、Mr.シンナーはおろか、いわゆるラッカー・シンナーに近い位の侵食性を持っている。しかしそう云った「強い」溶剤成分は乾燥の極初期の内に殆どが塗膜から抜け切ってくれる為、結果としてデカールを傷める事が少ないのである)。
 
正確な商品名を書くのを忘れていたので、最後にそれを書いておく。メーカーはアレスコ/カンペ・ハピオで、商品名は、「カンペ水性カラーニス・とうめい」、又、同メーカーに「カンペ水性ウレタンニス」と云うのがあり、中味は同じなのだが、こちらは最低でも700cc入りである。唯、単位あたりでは安くなるので、本格的に使い出したらこちらを買う事になると思う(最初の100ccは、テストだけで使い切ってしまった、いつもの事ながら、やりすぎの感は否めない)。 尚、どちらのラインナップにも、「つや消しとうめい」がある事を書き添えておく。[ 註6 ]

結局これを書いてから、実際に水性ウレタンを本格的に使用する機会はHJ誌2003年4月号に掲載されたライデン機ザクの作例までありませんでした。 現時点では未発売ですが、2004年春頃にGSIクレオスから模型用水性ウレタン・クリアが発売される予定です。担当者の方にお話を伺う機会がありましたが、本文中で指摘した問題点をかなりの部分まで解消した製品として発売する意向との事であり、大きな期待を持っています。

[スジ彫り](Panel-Line Scribing)

 
メカ物キットにスジ彫りは付き物だが、わざわざそれを切り直す等と云うのは、かつてはせいぜい飛行機モデラーか、カーモデラーくらいしかやらなかった。それが最近では、キャラクターモデラーもお利口さんになったのか、ロボット物でもスジ彫りがハッキリしなかったり、ヨレていたりするとバカにされる様になり、模型誌等でもスジ彫りの方法を色々紹介する様になって来たが、どうも今一つ一人一人言う事が違っていたりして、迷う事も多いのでは無いだろうか。
 
これは一口にスジ彫りと言っても各人各様の流儀がある為であり、これが正解!と云う万人向けの答えは無いと思った方が良いのである。
 
それを踏まえた上で私がお勧めするのはモデルアート誌の別冊、「空モデルテクニック」に載っている、「スジ彫りのすべて」と云う記事である。これは別名を「史上最強のスジ彫りガイド」と言うだけあって、知られている殆どのスジ彫り方を紹介し、それぞれの長所、欠点を冷静に評価している等、私が見た中では文句無くトップの内容を持っている、ハッキリ言ってスジ彫りについては、これさえ読んで置けば他はいらない、と云うくらいの物であり、本稿の読者諸氏にもぜひお勧めする。又、この本は、スジ彫り以外の、塗装法などの内容も非常に高く、殆ど間違った事が書かれていないと云う希有な本でもある(実は、模型のHOW-TO本と云うのは、結構いい加減な事が平気で書かれている事が多く、その内容がまた別の本にそのまま引用されて、いつの間にかその間違いが常識化していた等と云う事も珍しく無いのである〉。
 
唯、この本の随所に出てくる、独自のユーモア感覚にはついて行けない(と言うより、行きたくない〉人も多いだろうと思うが、私はそう云った箇所は無かった事にして読み飛ばす事にしている。それさえ無視すれば、大変為になる本なのでぜひ一読をお勧めする。[ 註7 ]

この部分、どこかでお読みになったとお思いの方もおられるのではないでしょうか?実はこれを書いた後に「空モデルテクニック」の執筆者である黒須吉人氏にこの文章を読んで戴く機会があり、なんと当時氏がMG誌で連載されていたコラムでこの部分をそのまま引用して戴く事になったんですね。「手前味噌にならない為、他人による客観的評価を引用する自著紹介」と云う意図で引用して戴いた、と云う経緯だったんですが、なんとその掲載号でMG誌編集部が黒須氏による「この文章は他人の書いた文章の引用である」との断り書きを掲載し忘れてしまうと云うポカがありました。次号にてその旨に関する訂正が掲載されましたが、当時これを見落とされた方から事情の問い合わせを受けた事が何件かあり、他にもこのような疑問をお持ちの方がおられるかと思いますので、上記のような事実関係であった事を説明させて戴きます。

さて、スジ彫りについての一般論は、前掲書に任せた所でここからは私の、極私的スジ彫り論になる。スジ彫りの道具には、Pカッターを始め、ケガキ針からデザインナイフ等果ては目立てヤスリまで様々な物が使われるが、かつて私は「針の人」だった。理由は単純で、かのバーリンデン先生の本に書いてあった事をそのまま実行していたからである。わざわざスジ彫りを切り直す為だけに凸モールドの飛行機を買って来ては、縫い針をピンバイスに衛えた物で機体全面のスジ彫りをやり直し、それが終わると同時に飽きてしまってそのキットは箱の中ヘオクラ入り、と云った事を何回か繰り返した様な記憶がある。
 
そのままつい数年前まで、使うケガキ針が変わるぐらいで、基本的には針だけを使って来たのだが、その間に私の作風はどんどんグロスの嵐と化して行き、回を追う事に塗膜の厚みも増して行くにつれ、スジ彫りも深くならざるを得ず、針だけでは不都合な事が増えて来た。
 
針と云うのは浅く彫っている分には、ガイドさえしっかりしていれば充分にシャープな線が彫れるのだが、それを深くしようと何度も彫り直している内に、どうしても線がヨレて来るのである。そして何と云ってもやっかいなのが、スジ彫りのエッジ部のめくれ返りだった。めくれを落とそうとぺーパーをかけても内側へ戻ってしまい、それを彫り返す為に又針でさらい、又ぺーパーがけ、と云う作業を何度も繰り返し、その内にシャープだったスジ彫りも線はヨレ、無駄に太くなって行くばかりでやればやる程悪くなるとさえ思えて来る様になった。
 
そんな時期に読んだ「空モデルテクニック」で、「ハセガワ・トライツールのエッチング製模型用けがきノコギリ」がスジ彫り工具として推奨されていたのである。実はそれ以前からこれは持っていたのだが、あくまでも薄刃のノコギリとしてしか見ていなかったし、そう云う使い方しかして来なかった。
 
そこで腰を据えてスジ彫り工具としてこれを使い始めてみると、最初はやはり違和感があり、無理にナイフ・ホルダーに取り付けて使ったりしていたのだが、程なくしてコツを掴んで来るとこれが実に具合良いのである。先ず線がブレない、浅いスジ彫りをそのまま深く彫り直すだけの作業なら、Rのきつい部分以外は、フリーハンドで充分にキレイな線が引けるし、針に比べるとエッジのめくれがかなり少ないのだ。結局慣れて来る内に、無理してホルダーに取り付けて使うよりも、直接ノコ刃を手に持って使う方がコントロールし易い事が解り、以来そのやり方が現在まで続いているのである。
 
私にとって、このノコ刃の最大の利点は、どんなに深く彫ってもスジ彫りの太さが変わらない、と云う所にある。最近の私の塗装は、一般的なカーモデル並、あるいはそれ以上の厚塗りになる事も多く、その為スジ彫りの深さもハンパではなくなって来ており、つまり現時点での私の作風にとって、このノコ刃は理想的と言って良いのだ。
 
唯、勿諭良い事づくめと云う訳には行かない、第一に、直接手で持って使うので、長時間使っているとすぐ指先が痛くなって来る。第二に、使われているステンレスが焼きの入らないナマの物なので、頻繁に使っていると刃先がすぐ減って来てしまうのである、さあ、これを何とかしたいと考えた。
 
刃先だけが減る、と云う事は逆に言えば作業の大部分は刃先だけで足りる、と言う事も出来る、つまり、何もノコ刃で無くとも、同じ厚さの鋼板があれぱ、刃先の形だけ整えれば同様に使えると云う事だし、その鋼板を焼き入りの物を使って、ホルダーに取り付けられる様にすれば、かなり使える工具になる筈だ…と、ここまで考えてはたと思いついた。
 
薄手の焼き入れ鋼材で、ホルダーに取り付けるのに適当な物、と云う事ならすぐ身近にあるではないか。
 
カッターの替刃」は正におあつらえ向きの鋼材であり、デザインナイフのホルダーに(通常とは逆向きに)刃の部分が内側なる様に取り付けるだけで大体望んでいた通りの工具になる。
 
後は先端部に軽く砥石(ペーパーでも良い)を当てて形を整えるだけ、問題は極端に薄い替刃が無い事だが、内装業者用のクロス専用カッターの替刃が厚さ0.25mmで、これならギリギリ、MGシリーズの運河彫りの切り直しなら何とかなる。丁度この頃、MGの真っ盛りで、こればかり作っていた事もあって早速このスジ彫り工具は大活躍、大いに重宝する事となり、これは現在に至るまで現役である。
 
さて、これを作って見て気づいた事は、自分ではノコ刃の代用品を作ったつもりが、いざ出来た物を見てみるとこれは幅0.25mmの極細の向待ノミでもあるではないか(向待ノミとはノミの一種で、ノミの中でも幅寸法が正確に作られており、ほぞ穴など、幅の精度が要求される溝彫り作業に使われる)。
 
鋼材の厚さと云う点から見ても、カッター用替刃には多数のヴァリエーションがあり、その数だけ、鋼材の厚み分の幅を持った向待ノミを作る事が出来ると云う事になる。それに気づいてしまった以上、この私がそれを全部揃えない訳が無い!当然の結果として現在私の手元には、0.25mm(オルファ:M型、NT:H-1型)を筆頭に、0.38mm(各社デザインナイフ刃)、0.45mm(オルファ:アートナイフ刃、NT:DL型)、0.5mm(各社共通L型刃)、0.65mm(タジマ:特厚L刃)、以上のヴァリエーションが揃っている。唯、0.38mm以上の物は、よっぽどの大スケール・キットでも無い限りスジ彫り用には使えない事は言うまでも無く、これらは主にスリット部の彫り直し等、正にノミとして活躍している(精密ドライバーなんぞを研ぐよりよっぽど簡単だし、寸法も正確で切れ味も申し分ない)。[ 註8 ]

現在ではこれに加えて、OLFAから「特専黒刃(中)02」及び「特専黒刃ロング02」と0.2mm厚の替刃が2種類出ています。これは単体で0.2mm厚のスリット工具用刃材として使っているだけでなく、この後で紹介している0.1mm厚のスジ彫り工具を作る際、0.1mm鋼板を挟み込んで補強する用途に重宝しています。 また、これらの工具については文章だけではどうしても実際が伝わりにくい事もあり、模型イベントに出店する際に、少数ではありますが自作した物を販売する事を始めました。自作なさろうと云う方の参考にして戴ければ幸いです。

さて、ここまで揃ってしまうと、どうしてももっと薄い物も欲しくなって来る。トライツールのエッチングノコ刃には二種類の厚さがあり、「模型用ノコギリ:TP-3」と云うのが0.2mm、「けがきノコギリ:TP-4」と云うのが0.1mmなのだが、0.2mmはともかく、やはり何としても0.1mmが欲しい。もうここまで来れば「0.1mm厚の焼き入れ鋼材さえあれば、後は何とか自分で整形加工して無理にでもホルダーに取り付けてやる!」ぐらいに気持ちは盛り上がっているので、後は肝心の鋭材を探すだけである。
 
身近な所で先ず見つけたのがカミソリの刃だった。近所の雑貨屋に10本入100円前後で売っている柄付きのカミソリが良い。これなら刃の取り外しも楽だし、バイスに挟んで一気に折って行くだけで大体の形は作れる。後はこれまでと同じ要領であるが一つだけ。
 
さすがに0.1mmともなるとペラペラで刃先が頼り無い為、ホルダーにはカッター替刃二枚の間に挟んで取り付け、先を数mmだけ出して使っている。もうここまで来れば怖い物無し、最強のスジ彫り工具の完成であるが唯一、彫り始めの正確さではノコ刃にはかなわない為、ノコ刃である程度までガイドを彫ってから、自作の工具で深く彫り直す、と云うのが現在のやり方である。[ 註9 ]

現在ではエッチングノコも選択肢が増え、これを書いた当時よりは価格も身近になってきており嬉しい限りです。現在ではスジ彫り工具と同じ要領で、エッチングノコ刃を細く裁断した物で自作工具を作って使用しています。

後に、東急ハンズで「焼入れリボン」と言う焼き入れ済み鋼材の1m売りを見つけ、その中に厚さ0.1mm、幅6mmという理想的なサイズの物があったので早速入手し、それをアートナイフのホルダーに取り付けた二代目が現時点での主力選手となっている。
 
基本的には、スジ彫りの全てをこれで切り直しており、一部のRのきつい部分も、ケガキ針である程度切ってから、この工具でさらい直す事にしている(ちなみに、この「ケガキ」と言う言葉だが、私は何となく頭の中で「毛書き」、又は「毛掻き」、あるいはおよそ日本語にはなっていないが「削掻き」等と云う当て字を漠然と思い浮かべていたのだが、どうやら「罫書き」、又は「罫描き」と云う字を当てるのが正しい様だ。こう云う業界内だけで使われる言葉と云うのは、一般性が無い分、その「読み」だけが一人歩きして、各人勝手な字を当てる為、結構いろんな当て字が使われる事が多いらしい。以前、本稿で「キサゲ」を取り上げた時、漢字では「切下」と書く、と紹介したが、その後、木工関係の資料を見ていた時に、ろくろ挽き職人の使う道具の中に「木仕上げ」と書いて「きしゃげ」と云う刃物がある事を知った。おそらく、双方関係はあるのだろうが、どちらが先か、等、詳しい事は不明である)。
 
いくら何でも、これだけ揃えばもう充分…などと私が言う訳が無い(こう云うのを、目的と手段の逆転と言う)。今でも使えそうな材料は常に探しているし、先日もオルファから0.3mm厚のカッターが新しく出たのを見つけたばかりである。どなたか、厚さ0.1mm以下で手頃な焼き入れ鋼板の入手法など、ご存じの方はいないだろうか?[ 註10 ]

これはマジで現在でも欲しいと思っているのでどなたかお心当たりの方はご一報願えれば幸いです。通常のSK鋼で充分ですし、最悪焼き入れ前のナマ材でも構いませんので一つよろしく。

[プラサフ](Primer-Surfacer)

 
世の中には、「恥ずかしくて、ロに出せない言葉」と云うのがある。

こう云う言い方をすると、読者諸氏の中には、
「へっへっへ・・・お嬢さん、あっしゃね…」
「あぁ、いけません、そんな所を…」
「へっへっへ、そんな所じゃ解りません、はっきり言って戴かないと…」
「あぁ、恥ずかしくてとても言えない…」
 
等と云う様な爽やかな情景が頭の中を駆け巡ってしまう人もあるかと思うが、この場合は勿論そう言う意味では無い。
 
言葉の省略の仕方と云うのは、各言語ごとに違う筈の物であるが、本来外国語である言葉をベタベタの日本語センスで省略した言葉、と云う奴が、私には恥ずかしくて仕方ないのだ。
 
具体的に言うと、一番恥ずかしいのが、「パソコン」と言う言葉である。
  他にも「コンビニ」とか「オートマ」、「プレステ」等、数え上げればキリがないし、古い所では「エレキ」などは、時代を越えた恥ずかしさが今でも新鮮に胸を打つ。「ファミコン」に至っては言葉自体の恥ずかしさに加え、一般名詞として各杜のゲーム機は言うに及ばず、ゲームソフトの意味まで持たされてしまうと云う、殆ど場末のストリッパー級の恥ずかしさを獲得してしまっている有り様である。
 
さて、振り返れば我らが模型界も、ご多分に漏れずこうした恥ずかしい言葉であふれかえっている。元々、「プラモ」と言う言葉自体が(「エレキ」には負ける物の)充分恥ずかしいし、他にも「ソフビ」、「ラジコン」、「サンペ」等、素晴らしい恥ずかしさが目白押しであるが、その中でも恥ずかしさでは関脇クラスの「プラサフ」が本項のテーマである。
 
数年前の本稿で塗料の分類について書いた時、その最後にプラサフと云う物の組成が良く解らないので知りたい、と云う事を書いたのだが、これは前回「サーフェイサー」の項を書いた時点でも変わっていなかった。しかし、その後のリサーチの結果、ある程度の事は解って来たので、「塗料」、「サーフェイサー」の項の続きを書いてみる事にする。
 
以前、「塗料」の項で書いた事は、プライマーは塗料と云うよりは前処理剤であり、出来る限り薄く吹かなければいけないし、研ぐ事も出来ない等、サーフェイサーとは正反対の性質を持つ事を述べ、「プラサフ」では如何にしてこの相反する二つを、一つにまとめているのかが解らない、と云う内容だった。
 
ここで言っている「プライマー」とは、「ウォッシュ・プライマー」に代表される、ポリビニルブチラールをvehicleとした、ブチラール樹脂系プライマーの事で、その限りに置いては、前述の内容は間違いではない。 唯、「ソフト99」に代表される自動車補修用プラサフの「プラ」は、ブチラール系プライマーとは関係なかったのだ。
 
自動車塗装を大別すると、新車塗装と、補修塗装の二つに分けられるが、新車塗装においては、リン酸塩皮膜処理の後にプライマーが施され、さらに、サーフェイサー、中塗り、上塗りと段階をきちんと踏んだ工程管理がなされている。
 
独立して使用される「プライマー」と云うのは、こう云った管理をきちんとされた中で使われる物で、中でも「ウォッシュ・プライマー」は、金属一般に広く用いられる物である(唯、自動車生産ラインでは、早くから焼き付け型のプライマーが主流であり、それも電着プライマーに変って来ている)。
 
一方、各地の修理工場で行われる補修塗装では、設備的にもこうした工程管理をきちんと行えるケースは少なく、もっと簡便に使える物が求められる事から、補修用「プラサフ 」が生まれて来た。これは、基本的にはサーフェイサーなのだが、その中に、塗料としての性能を悪化させない範囲で、接着力の強い樹脂を配合して、下地への密着力を向上させた物で、通常は、エポキシ樹脂が混ぜられる事が多い。
 
つまり、いわゆる「プライマー」が混ざっている訳では無いので、普通のサーフェイサーと同じ様に扱えるし、当然・厚塗りもOKと云う事になる。前回の「サーフェイサー」の項では、プラサフについて懐疑的だった理由の一つとして、本来防錆鋼板用のプラサフである物が、ウレタン・レジンや、ホワイト・メタルにも有効であるとは考えにくいと云う事を述べたが、エポキシ樹脂の様に接着剤としても使用される樹脂によって密着性を得ているのであれば、これも充分納得が行く。
 
以上の様な事で、私の「プラサフ」に対する長年の疑問はその殆どが解決し、現在では安心して使用しており、ここに読者諸氏にもお勧めする次第である。
 
前回の時点では、「ソフト99」のプラサフを、缶から取り出して、ラッカー・シンナーで希釈して使っていたのだが、やはり手間がかかるし、空き缶は邪魔だし、コストも割高である。
 
塗料屋さんに頼んで同等の物が無いか問い合わせた所、おそらくこれが近いでしょう、と勧められた物が幸いにも当たりで、殆ど「ソフト99」に近い物だったので、現在ではそれを使っている(正体の知れない塗料を、いきなり4kg 缶で買うと云うのはかなり勇気のいる事である。今回は当たりだったから良かった物の、ハズした場合には、金銭的な損失は勿論、狭い部屋の中ではあんな邪魔な物も無いのだ。ましてこれが16kg缶だったらと思うと・・・)。
 
通例ならばここで、この塗料のメーカー名、及び商品名と価格を紹介する所だが、最低でも4kg単位でしか買えない物を紹介しても、そんな物を買おうと云う読者が、一人たりともいるとは思えないので省略する(勿諭聞かれれば答えるが)。
 
それより、現在では模型流通で使い易い物が出ているのでそちらを紹介する方がよっぽど親切と云う物だ。
 
今年になってMr.カラーから「レジン用プライマー・サーフェイサー」と云う商品が出たが、これもまた同タイプの「プラサフ」であると言って良いと思う。きちんとした裏は取っていないので「絶対」とまでは言えないが、私が実際に試してみた限りでは、「ソフト99」等のプラサフと同じ振舞いを見せた事からも、まず間違い無いと思う。
 
そして、この「Mr.プラサフ」は、模型用なだけあって、体質顔料のキメがかなり細かく抑えられており、その点で「ソフト99」より優れていると言えるのである(ソフト99プラサフ唯一の欠点が、この粒子の粗さだった)。たとえプラサフであろうが、塗料である以上絶対ハンドピースで吹く、と云った私の様なひねくれ者にも、スプレー缶とビン入りの両タイプを用意すると云う親切ぶりで、ウレタン製レジン・キャスト・ガレージ・キット用のプラサフとしては、決定版と言って良いと思う。[ 註11 ]

その後ソフト99のプラサフが仕様変更され、ガレージキットの下地には向かない性質に「改良」されてしまった事による騒動はまだ記憶にも新しい所です。この結果、現状での定番は「改良」以前のソフト99と同じ仕様で発注されていると云う「造型村」のプラサフになっているようですね。 私個人は本文にもある通りの状況だったので全く影響は受けずに済みましたが、それとは関係なくこれ以降も2~3のプラサフを試した結果、本文で紹介した物とは別の更に使い勝手の良い製品が見つかった為、現在ではレジンキットには全てこのプラサフを使用しています。この製品は知人のライター諸氏数名にも試して戴きましたが、大変良い評判を戴きました。まぁやっぱり最低4kg缶なんですけどね…。

以上の様に、読者諸氏には無条件でこのMr.プラサフを選ぶ事をお勧めするが、一つだけ気になる事が無くもない。
 
前述した4kg缶入のプラサフを購入した際、塗料屋さんからの注意事項として、必ず指定された種類のラッカー・シンナーを使用して欲しい、と云う指示を受けたのである。聞いてみると、通常のラッカー塗料としての樹脂以外に、プライマー効果を得るための樹脂(例えばエポキシ樹脂)が混ぜられている関係で、普通のラッカーに比べてシンナーの「抜けきり」が悪く、有機溶剤の一部が長い事塗膜の中に残ってしまう事があるので、一般的なラッカー・シンナーよりも「抜けきり」の良い、専用のラッカー・シンナーを使って欲しい、と云う事だそうである。
 
後から文献等を調べて見ると、一口にラッカーと言っても大きく言って三種類に大別されるのだそうで、1.ニトロセルロース(NCと略す)ラッカー、2.NC変性アクリルラッカー、3.ストレートアクリルラッカー(又は、CAB変性アクリルラッカー、CABって何だ?)の三つである。この三種の塗料は1、2、3、の順でシンナーの抜けが悪くなるので、それぞれに専用のシンナーが用意されている。
 
通常、最もポピュラーなラッカー・シンナーは、1.NCラッカー用の物であり、これはラッカー・シンナーとしては、最も「抜けきり」が悪い(塗料自体が抜けが良いので、シンナーは抜けを考慮されていない、と云う事)。つまり、先の指示は、何も指定しないとNCラッカー用のシンナーを使われる可能性が大きいので、アクリルラッカー用のシンナーを指定して来たと云う事だろうと私は解釈している。
 
これも二種類あるがストレートアクリルラッカーと云うのは、一般向けには殆ど流通しない物らしいので、NC変性アクリルラッカー用の事だと思えば良いだろう(ストレートアクリル用と思しきシンナーについて塗料店に問い合わせた所、こんな珍しい物は入れた事が無いので調べないと解らない、と書われてしまった)。
 
さて、Mr.プラサフのビン入りのラベルには、シンナーとしてMr.シンナーが指定されているのだが、これは専用のシンナーと云うよりも、流通、営業上の都合からなされた指定、と云う感は否めない。勿論Mr.カラーも、恐らくNC変性アクリルラッカーの一種である事は間違いないだろうから、その限りにおいて間違ってはいないと思うが、Mr.シンナーの組成を見る限りでは、多少の不安が無い訳でも無い。
 
参考までに私が知り得た限りのMr.シンナーの組成を書くと、MIBK{メチルイソブチルケトン}:(20~30%)、イソプロピルアルコール:(20~30%)、イソブタノール:(20~30%)、ブチルセロソルブ:(5~10%)、と以上である(真溶剤ではないアルコール系溶剤の割合が多いのが気にかかるのである。この辺についてもY崎氏を始め専門家の意見が聞きたい所である)。
 
唯、一般モデラーの大多数は、アクリルラッカー専用シンナーなど、入手したくても出来ないだろうし、Mr.プラサフにMr.シンナーを使ってトラブルが起こるとも思えないので、基本的には心配する必要は無い。
 
まあ私の様な変わり者か、偶然知り合いに塗料屋がいる、と云った人の為の参考データだと思って欲しい(逆に、もしそう云った方がいたら、さらなるデータ提供がいただければ有り難い)。
 
尚、この「シンナーの抜けきり」と云う問題は、現時点で私の塗装に関する最重要テーマの一つになってきており、これからもしばらくは追いかける事になると云う予感がしている。
 
「水性ウレタン」の項でも述べた様に、トップコート・クリアの侵食性にもシンナーの「抜けきり」は大きな意味を持っているし、厚塗りが前提となる場合は、とにかく少しでも「抜けきり」の良いシンナーが欲しい。単に蒸発速度が速いだけでは抜けは良くならない、これからは「塗料」対「シンナー」ではなく、「vehicle(樹脂、展色剤)」対「有機溶剤」をもっと考えて行く事になるだろう。

後記

 今年もこうして無事この原稿を間に合わせる事が出来た訳だが、今回は特に、周囲の協力のおかげで、ここまでこぎつける事ができた。ここ数年、この原稿の為にH沢氏のワープロを借りっぱなしにしていたのだが、今回一年振りに電源を入れてみたら、何と故障していたのだ。慌てて知人に連絡を取り、結局T谷氏のワープロを借りる事が出来たのだが、ワープロが故障した事を報告する電話で、開口一番、お詫びの言葉もそこそこに、「もう邪魔なんでこれから返しに行くから」と悪魔の様な言葉を吐いた私を、笑顔で(多少、引きつりながらも)迎えてくれたH沢氏に感謝したい。

そして、わざわざ家までワープロを運んで来てくれただけで無く、壊れたワープロと共にH沢氏宅まで乗せて行ってくれたT谷氏にも感謝する。締めの言葉は例年通り、最後まで読んで頂いた事を読者諸氏に感謝しつつ、例によって内容に関する質問、感想、反論、等々は直接、私:石川まで、と云う事で次回に続く(といいな)。