欠陥模型大百科・増補版

ENCYCLOPEDIA MODELLICA  “enlarged” version
Private Edition Ver.4.2.3

石川雅夫(MMI/LIMEGREEN)
第6回モデラーズ・スペース展示会(1995年)

[アートナイフ] (Art Knife)

 昨年に続いて、しつこい様だが又このネタから始める。
五十音順で並べたせいもあるが、一旦気にしはじめると生来の凝り性が首をもたげ、いろいろと調べる内にもっと基本的な事について押さえて置くべきだと思い、再び取り上げる事にした。
 
アートナイフ、及びデザインナイフと言うのは、モデラーにとっては余りにも基本的な工具であり、その為にかえってきちんとした定義が忘れられている。模型誌の記事等でもこの2つは全く混同されており、アートナイフの写真にデザインナイフとキャプションが付いていたりする事はしょっちゅうある。
 
試しに私の手元にある模型のHOW-TO本の用具解説のページを調べてみた所、間違った記述のない本は一冊もなかった。[ 註1 ]

「間違った」と言ったって、その基準自体がこっちで勝手に作った物ですからねぇ…。まぁ、勇み足、って事でお許しを。

勿論これは、逆に言えばそんな厳密な定義など知らなくても実用には何の支障も無い事の充分な証明でもあるのだが、そういう普段ないがしろにされているどうでも良い様な事について、くどくどとしつこく書くのがこのコーナーの真骨頂であり(?)、今回もその路線で行くつもりなので、覚悟しておつき合いねがいたい。
 
さて「アートナイフ」についてだが、これはOLFAブランド独自の一社のみの規格であり、NTをはじめ他社からは互換性のある同規格品は、実は出されていないのである。
 
当然、替刃もOLFA製の物が一種類あるだけで、デザインナイフにある様な、ポイント角度を変えた替刃のバリエーションも存在しない。OLFAからは、例の誰もが知っている黄色の製品の他に、BASICシリーズと言うラインナップで、黒い軸の物(こちらの方が100円高い)が出されている。つまり、この2つだけが「アートナイフ」と呼べる物なのであり、これ以外の物を「アートナイフ」と呼ぶのは厳密には間違いなのである(また始まった……)。[ 註2 ]

この状態は、次の年には早くも崩れる事になります。そして、これ以降、「アートナイフ」を主とした、その年の最新カッター情報が恒例となる事に…。

市場には多種多様なペングリップ型替刃式カッター(適当な用語が見当たらなかったので、私が今勝手にデッチ上げた言葉だが、意味する所は解るでしょ?)があるにもかかわらず、実質上たった一種類しかないこの「アートナイフ」は、モデラーの中では圧倒的なシェアを誇っていると言って良いと思う。その理由には、価格、入手のし易さ等も当然考えられるが、それならばライバル(?)の「デザインナイフ」も同様の筈である。
 
これは個人的な意見(と言うより感想)だが、「デザインナイフ」が本来、紙を切り抜くために作られているのに対して、「アートナイフ」は物を削るために作られているのではないかと思う。刃厚も0.45mmと比較的厚め(L型刃が0.5mm)であり、刃付けも、切れ味最優先の「デザインナイフ」に比べると、刃持ちを考えた丈夫さ優先の刃付けがされている事からもそれがうかがえる。
 
又、これ以外にタジマツールと言うブランドから、アートナイフと言う名前の商品が出されているが、これはOLFA規格とは違った、タジマ独自の規格の製品で、「アートナイフ」と「デザインナイフ」の丁度中間ぐらいの大きさの替刃が付く様になっている。アルミ製のパイプ状になった本体の中に替刃を納める事ができ、そのキャップ部がインレタ等に使うバニッシャーになっている等、結構便利に使える物だが、これもどちらかと言えば「紙切り」用と言える。

[エッジ](Edge)

[刃先]の項を参照の事。

[L型刃](Type-L Refill Blade)

 モデラーヘのL型刃の普及振興は、私のライフワークの一つと言っても過言ではなく、今回も当然のごとくこの項目は登場するのである。
 
今年のトピックとしては何と言っても大型新人「超鋭角刃」の発売である。
 
OLFAでは、以前からA型刃(小さい方のカッターの事ね)で「プロ用特専黒刃」と言うのを出していて、一部の通のモデラー(?)の間で愛用されていたが、それのパワーアップ・バージョンとも言うべき新製品が今回取り上げるこの「プロ用・超鋭角刃・特専黒刃」である。
 
これは何がすごいと言ってとにかく切れ味がいままでのL刃に比べて全然違う。メーカーの自信もハンパではなく、広告にその刃先断面の拡大写真を大きく出しただけでなく、広告のみならず製品のパッケージにまでその焼き入れ硬度と刃先角度、それも第一段角と、第二段角の両方を表示するという、カッター替刃としては前代未聞の販売戦略からも、その自信の一端がうかがえる。
 
刃先角25度、ヴィッカース硬度HV860と言うその数字は、他のL刃についての具体的な数字がない現状では、定量的な比較の対象にはなりえないが、実際に使ってみて感じた切れ味、そしてくい込み感の違いを裏づける物とは言えるだろう。
 
特にHV860と言う硬度は,ロックウェル硬度のcスケールに換算すると、HRc65に近い硬度で(どっちにしても解らない事では同じだ、と言う意見があちこちから出そうなので、詳しくは[硬度]の項を参照、と言う事にする)、これは大体金工用ヤスリ(それも結構高級クラスの物)ぐらいの硬さだと思えば良いだろう。そしてこの製品ではそれを特殊な鋼材を使うのではなく、従来通りの炭素工具鋼SK-2を使いながら熱処理を変える事によって行っている。
 
普通、工具鋼で刃物を作る場合は、主にその鋼材に含まれる炭素量に応じた適正な硬度がある。熱処理の仕方次第ではそれを越える硬度を得る事もできるが、その場合粘りのない、もろい刃物となり、実用性に著しく欠ける物しかできない。
 しかしカッター替刃は使い捨てが前提の刃物であり、多少粘り強さを犠牲にしても硬度を上げ、精密な刃付けを行う事によって、切れ味を増す事のできる商品である。こう言うコンセプトを立て、それをきちんと製品化したOLFAと言う会社には正直脱帽である。
 
私は元来、アンチOLFAであり、こんなOLFAのチョウチン持ちの様な事は書きたくないのだが、事実は評価しなければならない(頑張れNT!)。
 
実は同じ様なタイプの商品は、タジマツールから「硬刃」と言う物が出ているのだが、こちらは切れ味よりも耐久性(それも石膏ボードを切る、等の重作業時の耐久性)重視の商品と思われ、切れ味は、はっきり言ってかなり鈍い。
 
元々タジマのL刃と言うのは、ただでさえNT,OLFA等のL刃に比べると切れ味は鈍めだったが、「硬刃」ではその傾向がさらに強くなっているので、A型刃やデザインナイフを使い慣れている人には、かなりの違和感があるだろうと思う。
 もっとも、私はその切れ味の鈍さが、それはそれで好きなので、現時点では、OLFA超鋭角刃、NT製L刃、タジマL刃、タジマ硬刃(以上、切れ味の順)の4種類を気分で使い分けている。
 
刃物は鋭ければ良いと言う物ではないし、硬ければ良いと言う物でもない。特に替刃式ではない通常の刃物の場合、なまじ硬度が高すぎると、私らの様な素人がいくら研いでも刃が付かなくてかえって苦労する事が多い。HRc58前後の適度に甘めの刃物の方が、楽に刃付けができて切れ味も良いという場合が多々ある。勿論その分刃持ちは悪くなるが、気軽に研ぎ直せるのでこっちの方が実用的だと言う人も多いのである。
 
前半と矛盾した事を言っている様に思われる人もいるかもしれないが、そうではない。
普通ならそう言う問題が発生するはずの所を、常に新鮮な替刃を安価に入手できる替刃式カッターの利点を最大限に生かしている点で、この「超鋭角刃」は優れていると言いたいのである。そしてモデラーと言うのは、A型カッターや、デザインナイフ等のかなり鋭利な(正にRAZOR SHARPと言う言葉通りの)切れ味の刃物に慣れている人が多い人種なので、お勧めする次第である。
 さすがに私もタジマの「硬刃」を万人に勧めようとは思わないが、OLFAの「超鋭角刃」はぜひ一度使ってみてほしいと真剣に思う。これを書いている時点では、渋谷の東急ハンズのB1フロアにあるカッターナイフのコーナーに置いてある事は確認している。私が奨める商品にしては珍しく、いろいろな所で見かけるので、この黒ケース入りの替刃を見たら手に取ってみてほしい。どうもOLFAのヨイショばかりしてしまった気がするので、最後にNTへのエールを送りたい。
 
GO NT! BEAT OLFA!

[替刃式外科用メス](Surgical Scalpel)

 何で突然医療用器具がこんな所で紹介されるのかと思わわるかもしれないが、これは絶対お勧めの工具なのである。
 
モデラーズから出ている「プロ用カッター」と言う商品があり、見た事のある人も多いと思うが、実はこれは安全剃刀で有名なフェザー社が、外科用メスとして作った製品をモデラーズがそのまま再パッケージして出している物なのである。
 
これは国際的な規格に沿って作られた物で、これ以外にもレトラセット社やダーレ社の製品が輸入販売されているが、互いにほとんど完全に互換性があるので、外国物のホルダーにフェザーの替刃を付けたり、その逆も何の問題もなく行える。替刃のバリエーションとしては、NO.11~NO.15と呼ばれる5種類が入手可能だが、私はNO.11と、NO.15の2種類以外はほとんど使っていない。[ 註3 ]

ここの記述には間違いがありました。正しくは、「NO.10からNO.15までの5種類」です(NO.13が欠番なんですね)。

他の項でも書いた事だが、モデラーと言うのはカッターナイフに慣れすぎているため、その他の刃物に対して、ある種保守的と言える様な所があるのだが、この製品はカッター同様、替刃は(衛生上の理由から)使い捨てが原則である。そして切れ味についても、本来が外科手術に使うための物なので全く問題ないといえるだろう。耐久性に多少難はあるかもしれないが、それは替刃式刃物の宿命だろう。
 
これはとにかく一度使ったら手放せない、特にNO.15の刃に関しては、削り出し派のフィギュア・モデラーには絶対お勧めで、私はこれ無しでは生きていけないというぐらいの物である(できない! お前を捨てるなんてできないんだあ~っ!!)。
 これ程有用な物なのに、モデラー諸氏への普及率といえばお寒い限りである。この理由は、はっきりしていて、模型店で売られている物が余りにも高価に過ぎるためだ。ホルダーが一本で2~3000円、替刃も一枚150円近くする様な物を一体誰が日常的なカッターとして気軽に買うだろうか。
 
そして、ここで声を大にして言いたいのだが、無理してこんな値段で買う必要は無い! もっと安く買えるのだと言う事をぜひ知っていただきたい。
 
東急ハンズ(渋谷店、池袋店)の彫金コーナーでは、モデラーズの物と同じフェザーの製品が、ホルダーが1000円、替刃は一枚50円で入手できるのである。私が良く買っていた2~3年前にはホルダーは700円で売っていたのだ。
 
フェザー以外ではレトラセットの製品も、ホルダーが5~600円程度のはずだし、替刃もせいぜい60円ぐらいだと思う(以前はハンズの文具コーナーやデザインコーナーで良く見たが、現在取り扱っているかどうかは未確認なので、あしからず)。ダーレ社の製品もあるが、これは(モデラーズ程ではないが)かなり高価なので、これしか入手できないのでなければ、無理に買う必要はないだろう。[ 註4 ]

ここも大きな間違い。「ダーレ」の商品と、「モデラーズ」の物を取り違えて勘違いしてました。「バカ高い」のは、ダーレの商品の方なので、「ダーレ」と「モデラーズ」を入れ替えて読んでください。また、フェザー製の替刃は、現時点、東急ハンズで1枚60円になっています。

別に高いからと言って品質はほとんど変わらず、メーカー間の格差は大して無いと言って良いと思う。違いと言う事では、メーカーによって替刃が鋼製の物とステンレス製の場合とがあって、この違いの方が大きいかも知れない。医療用として作られている場合は、間違いなくステンレス製だが、レトラセット等の文具メーカーの替刃の場合、鋼製の物もあり、この2種類は切れ味が結構違うので、注意したほうが良い。
 
この商品に限らず、模型店の流通で売られている商品(特に工具、材料関係)には、しばしば不当と思われる程の高値が付けられている場合がある。他に同等品や代用品が無い場合は泣く泣く大枚をはたくしかないのだが、そこを日々のリサーチや創意工夫で、同等品をさがしたり、代用品を作り出したりする事も、モデラーの心意気ではないだろうか。[ 註5 ]

これについては間違いと云うか、「反省」してます。MG,FGパールを通じて、曲がりなりにも商品を供給する側の立場を経験してみると、「不当」と云うのは言い過ぎだよな、と思う様になりましたね。後半部分に関しては今でも変わってないですけど。

一つ例を上げるとすれば、ハセガワ・トライツールの彫刻用ノミ〈丸)など、あれだけの値段を出してまで買う物とは私には思えない。精密ドライバーの先を研げばほとんど同じ物はできるし、現に多くの人がそうしているが、私の場合は、ドライバーの先では硬度に不安が残るので、古くなったドリルの刃のおしりの方を研いで、ピンバイスに付けて使っている。これならば必要な太さの物が正確に作れるし、硬度の点でも申し分ない。
 
金工用のドリル刃と言うのはかなりの低価格クラスの物でもまず間違いなく、ハイス鋼(高速度鋼)で作られているので、ヘタな刃物よりよっぼど硬度的には優れているのである。HSかHSS(High Speed Steel),又はSKH(JIS規格におけるハイス鋼の鋼種記号)と言う表示が、ドリル刃本体か、パッケージにあればハイス鋼製であり、いままで私はこの表示の無い金工ドリル刃は見た事がない。
 
替刃式メスには、関連商品として、この替刃をプラスチック製のホルダーに焼き止めしてある、使い捨てメスと言う物があり、一本100円前後で売られているが、これは模型用工具としてはお勧めしない。刃そのものは同じ物だが、プラ等の模型材料を削った場合、ちょっと力を入れただけでホルダーが折れてしまうのである。多少高価でも、金属製のホルダーを買った方が、使いやすさの点でも結局お得である。
 
最後につけ加えると、この替刃はOLFAの「アートナイフ」でもくわえる事が出来るので、とりあえず替刃だけを買って試して見る事もできる。ただし、専用ホルダーの方が小回りが利くので、本格的に使うには、金属製の専用ホルダーの購入をお勧めする物ではある。

[キサゲ](Scraper)

 工具の一種、漢字では「切下」と書く。
 
模型用としては、Uナイフやホビーナイフと言った商品が模型店等で入手できるが、これらの商品は元来彫金用(主にジュエリークラフト)の工具として使われていたキサゲを、モデラー用にアレンジして作られた商品である。
 
具体的な違いとしては、エッジ角が全然違う。彫金においては、キサゲはヤスリがけと磨きの間に位置する作業で、ヤスリ目をならして磨き出しができるくらいまでに表面を整える、言わば仕上げ段階の作業に使われる工具である(ちなみに、キサゲ作業自体の事も「キサゲ」と呼ぶ、「キサゲる」と言う動詞もあるらしい)。

この場合、ワ一ク(作業対象物、ジュエリークラフトなら指輪やブローチ等、作ろうとする物自体の事)は当然、金、銀、プラチナ等の金属であり、エッジ角は、85度程度から70度あたりと、かなり鈍角な刃付けをするのが普通なので、刃先は二段になっている事が多く、店頭で売られている時の刃角は、ほほ90度の状態で、それを使用者が好みのエッジ角に研ぎ直して使うのが当たり前になっているらしい。

元々、彫金の世界では工具は自分で作る物というのが常識で、一番重要な彫りタガネも、焼きの入っていない「株」と呼ばれる状態で販売されている物を、ユーザーが自分で加工整形した後、焼き入れをして使うというのが当たり前になっている。キサゲも、焼き入れこそしてあるものの、その「株」に近い感覚の物で、モデラーがいきなり買って使えるものとは言い難いだろう。
 また、キサゲのエッジ角というのは、ワ一クの材質が軟らかくなる程、鋭角にして行くというのが常識なので、プラスチックや、せいぜいホワイトメタルぐらいの材料しか使わないモデラー用としては、始めからもっと鋭角の刃が付いた物が欲しい。と言った点をふまえて作られた物が、Uナイフ等の模型用キサゲなのである。

所で、このキサゲほど、各模型誌の間で認識のされ方が違う工具も珍しい。モデルアート系の書籍では重要な工具の一つとして度々登場し、HOW-TO本の工具紹介ページにも必ずと言って良いほど載っているし、「曲がり刃のキサゲをどこかから出してほしい」と言った意見まで載るくらいポピュラーな工具と言った扱いである。[ 註6 ]

この「曲がり刃のキサゲ」とは、MA誌別冊の「空モデルテクニック」に写真入りで載っていた物で、これ自体は市販品ではなく、自作の工具でしたが、現在、東急ハンズ新宿店の彫金コーナーにおいて、殆ど同じ物が販売されています(サイズのバリエーションもあり)。当然私は全サイズ揃えてしまった…。

モデルグラフィックス系の書籍を見ると、記事にはたまに登場するかな、と言った感じで、HOW-TO本でも、こんな工具もありますよ、と言った感じで紹介されている。
 
これがホビージャパン系の書籍になると全滅といった感があり、本誌の記事でもまず見かけないし、あのプラモ大好き全二冊にも、キサゲのキの字も出てこない、と言った状況である。

これは各誌のカラーを考えれば、ある意味で当然の事とも言え、計らずもそれぞれの特徴が良く現れて興味深い。

キサゲがその力を最大限に発揮するのは、やはり金属加工であり、特に1/43のカーモデルに代表される、ホワイトメタル製のキットをきちんと作ろうと思うと必須の工具となる。これを裏返すと、メタルキットに手を出さない限り(特にキャラクター系のモデラーにとっては)大して必要の無い工具だと言う事であり、極端に言えばその存在すら知らなくても何の支障も無いと言って良いのである。

という訳で、決して万人にお勧めの工具ではないが、一つ言えるのは「カッターの刃を立てて、カリカリと削る」と言ったやり方を多用する人は、一本持っておいて損はないだろう、と言う事だ。

この作業をカッター刃の様な精密で鋭角な刃でやると、一発で刃が駄目になるし、刃こぼれのせいでワークの表面にも深いキズが付いてしまう。又、刃が薄くブレやすいため、キサゲ作業に付き物のリップルマークがさらに出易くなる等、本来カッター刃には向かない作業なのであり、少なくとも私は絶対にやらない(他人がやっているのを見るだけで背筋が寒くなるのだ)。

模型用キサゲと言うのは正にこうした作業のためにあるのだし、何よりもこちらの方が結果がきれいにあがるので、余裕があればこちらを使うに越した事はないと思う。[ 註7 ]

最近この目的では「セラカンナ」が注目されている様です。キサゲでキズの少ない作業をする為には、自分で研ぎ直した方が有利なのですが、モデラーには刃物を研げる人はかなり少ないのが現状でしょう(私はナイフ用の研ぎ器を使っている)。セラミックは最初からユーザーが研ぐ事は想定していないので、モデラー向きと言えるかも知れません(価格以外は…)。

又、機械工業等、工場などの現場でも、仕上げ用工具として、キサゲが使われているが、これは名称及び原理は同じでも、形状も使い方も我々モデラーの知っている物とは大きく異なる。

スペースが無いので詳細な説明は省くが、精密な定盤(「じょうばん」と読む。基準用の高精度の平面を持った、鉄のブロック)や、精密工作機械の摺動面などの高精度の平面仕上げを行う際、ミクロン単位で表面を削り取るための道具である。

こう書くと繊細な工具のようだが、実際は数十cmもある細長い鋼製の板に把手を付けたような物であり、これを両手で構えて全身を使って作業するのである。「キサゲは腰でかける」と言う格言があるそうだ。

[切先](Point)

 「きっさき」と読む。刃物の先端部分を本稿では、「切先」あるいは「ポイント」と表記する事にしている。
 
通常は「刃先」と言う言葉が良く使われるが、これは本来はポイント部を意味する言葉ではなく、物を切る事のできる部分(CUTTING EDGEと言う言葉が一番適当だと思う)全体の事を指す言葉なので、曖昧さを避けるためにこの2つは厳密に分けて表記する事にした。

具体的に言うと、「デザインナイフ」の替刃における、30°刃、45°刃と言う場合、本稿においてはこの角度の事は「切先角」あるいは「ポイント角」と表記する。

「刃先」については別項を参照の事。尚、このレギュレーションは、今年から採用した物なので、前回までのパンフレットを持っている人は、くれぐれもアラ探しなどしないように。

[蛍光色](Flourescent Colors)

 私の得意技と言えば、グロス仕上げ、パール塗装、蛍光色、と言う事になっているが、つや有り塗装については以前、当パンフレットでかなり細かく(細かすぎてかえって解りにくかったと言う意見もあるが)解説した事があり、パールについても、当展示会のLlME GREENコーナーで説明展示を行った事がある、と言う訳で今回は「蛍光色」の出番である(いよいよネタ切れか? 来年はどうするんだ?)。

蛍光色の特徴を以下の3つにまとめてみた。

 (1) 非常に色が鮮やかで、発色力が強い。
 (2) 重ね塗りをした時に、にじみが起きやすい。
 (3) 耐光性が悪く、著しい褪色を示す事がある。
 
まず、(1)についてだが、これは原理的な説明になるので、また解りにくい話が始まる(あ、そこのキミ、読み飛ばさない様に)。
 
色と言うのは、光の波長分布によって決まる。通常、物に白色光があたった場合、可視領域内の特定の波長の光が吸収され、それ以外の反射(正確には乱反射)された光の波長分布がその物体の色という事になる。
 
特定の吸収域を持たず、可視光のほとんど全ての領域で100%近い反射をする物体が「白」、その反対にほとんどの可視光を吸収する場合、その物体は「黒」と私達の目は知覚するのである。
 
いずれにしても物体色は反射光である以上、可視域トータルでは勿論、特定の波長域でも100%以上の反射をする事はないのだが、蛍光色の場合はこれには当てはまらない。
 
光は電磁波なので、波長が短い方がエネルギーが高い、つまり紫や青の光の方が赤や黄より高エネルギーである。そして蛍光物質は、青紫や紫、さらに短波長の紫外域の光を吸収して、そのエネルギーをより低エネルギーの赤や黄の光として再放出する物質なのである。
 
つまり蛍光物質とは、光のエネルギーによって発光する発光物質であり、そのため光の反射率は100%を越え、特定の波長域(例えば蛍光赤なら赤の領域)では200%近くの反射率を示す事もある。
 
これが蛍光色の発色の良さの理由であり、白熱電球よりも蛍光灯の光でより鮮やかに見えるのも、蛍光灯の光がより多くの紫外線を含んでいるためである。
 
同じ様な発光物質にリン光物質があるが、これと蛍光の違いを説明しようとすると、分子の電荷移動がどうしたとか、最低電磁励起がこうしたなどと、はるか彼方の世界の話になってしまうので、やめて置いた方が無難だろう。
 
ただ、このリン光物質に発光のエネルギー源を混ぜて常に発光する様にした物が、昔懐かしいあの「夜行塗料」である。
 
昔は発光のエネルギー源にガンマ線を発するラジウム226が使われていて、時計の文字盤なども暗闇にくっきりとよく光って見えたものだった。
 
しかし、ガンマ線は人体への悪影響が大きい事が知られる様になり、又、一部で、邪魔者を抹殺したい時には、夜光時計の文字盤の夜光塗料を§※Φって、相手のΔξに±≦て♂♀∞×れば、数年でその相手は必ずΩΨになって†±などという噂話(何かと世情も物騒な折、一部自主規制である)がまことしやかに流布された事も多少手伝ってか、ベータ線を励起源とするトリチウムやプロメシウム等を使う様になり、安全性は増したがその分発光力は低下したのだった。
 
さて、(2)についてだが、蛍光塗料と言えばクリアー系塗料と並んで、にじみ易い塗料の代表格である。実はこの二つがにじみを起こす原因は同じであって、それはどちらも発色母体に染料系の物質が使われている事による。
 
顔料と言うのは、基本的には物体を細かく砕いた物と言えるので、ある一定以上の大きさと表面を持っており、そのために不透明性(隠蔽性)も持つのだが、染料の発色母体となる物質は、分子の状態で媒体中に存在する。 つまり塩や砂糖が水に溶けている様な状態で、塗料に溶け込んでいるので、それを溶かす事のできる溶媒の中ではどんどん拡散して行ってしまう。つまり、上から塗った塗料のシンナー分によって溶かし出された染料の分子が、塗料中に拡散してにじみだす訳である。
 
この説明には異論のある人がいるかもしれない。
 
「それはおかしい、クリアーがにじむのは解るが、蛍光色には蛍光顔料と言う物があるし、現にMr.カラーの蛍光色は顔料性ではないか。なぜ顔料で着色された物がにじむのだ、いい加減な事を言うな。こういういい加減な奴がいるから世の中が乱れ、若者が危険なカルトに走ったり、女子高生が下着や唾液まで売ったり、ひいては郵便ポストまで赤くなってしまうのだ。関係者の猛省をうながす次第である。(岩手県在住 68歳無職男性)読売新聞9月31日号」 等と言う投稿が目に浮かぶ様だが、現在我々が入手できる蛍光顔料というのは、実はほとんどが体質顔料を蛍光染料で着色した物なのである。
 
具体的には、蛍光染料で着色した合成樹脂を粉末化して作られた物が多く、これを塗料等に混ぜて使うと、溶媒中に染料分子が溶け出す事は同じなので、にじみも同じ様に起こるのである(デカールのにじみも同じ)。
 
ただ、これを逆に利用して、タカラのレベル蛍光カラーが無くなって以来、事実上入手不可能だった純染料系蛍光クリアー塗料を自作する事ができる。市販の蛍光顔料をクリアー塗料に混ぜてから、ろ紙で顔料分を濾し取るのである(Mr.カラーの蛍光クリスタルシリーズは不可。HG顔料が超微粒子なので、ろ紙を通り抜けてしまうのだ)。[ 註8 ]

こうして自作した「蛍光クリアピンク」を使って製作したのが、HJ2001年5月号の講座に掲載された「退色ザク」。こちらとしては、「蛍光色」と書いておいたから判って貰えるだろう、と思っていたら、10人が10人、あれがコピックを使った結果だと解釈しているのには正直慌てました。あれは「起こりうる最悪のケース」を提示する為に載せた物で、マーカーインクは一切使っておりませんのでご注意を。一緒に掲載されているゲルググのピンクはレトラセットのインクを使ってますが、5年以上経過しているにもかかわらず、全くと言って良いほど退色は見られません(ピンクはマーカーインクの中でも、1番退色しやすい)。
なお、現在では「蛍光クリスタル・カラー」も廃版となり、「つや消し蛍光」にモデルチェンジしているのは皆さんご承知の通り。こちらは逆に顔料が粗過ぎる為、ろ紙で濾したら多分ただのクリアになる筈。
そう云えば、文中に出てきた「タカラのレベル蛍光カラー」ですが、この中にあった、「蛍光クリアホワイト」はいまだに代替品が見つかってないんですが、どなたか同等品をご存知の方、いらっしゃいましたら掲示板までご一報をお願いします。

 そして(3)であるが、これについては褪色しては困る物には使うな、としか言いようがない。実際これには私もさんざん泣かされたし、今も現在進行形の悩みの一つである。
 
「怖けりゃ使うな、使うなら覚悟」と言うのが現状であり、こっちが教えて欲しいくらいなのだ(マジで)。
 
最後にもう一つ。写真撮影を前提として模型を作る場合は、極力蛍光色を使わない事。蛍光色を、直接目で見た通りの色に撮影する事は不可能と思って間違いない。

[硬度](Hardness)

 前回のパンフレットでロックウェル硬度について書いた訳だが、硬度測定の基準と言うのは、ほかにいくつもある。
 
代表的な物をあげると「ブリネル硬度(HB)」、「ショアー硬度(HS)」、「ヴィッカース硬度(HV)」、そして「ロックウェル硬度(HR)」等である。尚、ロックウェル硬度には、a,b,c.と三つのスケールがあり、その中で一番硬度の高い物に適用されるcスケールが、通常、刃物の硬度表示に良く使われる、これが、「HRc」なのである(しつこい様だが、ホンダレーシングの事ではない)。[ 註9 ]

後になって、ロックウェル硬度のスケールは、a,b,cの3つどころか、殆どアルファベットを全て使い尽くすくらいの種類がある事を知りました。ただ、私はcスケール以外は殆ど目にした事はありません。

又、「超鋭角刃」について書いた部分をみても解る通り、ヴィッカース硬度も刃物の硬度表示には良く使われる。数値の刻みが細かく、かなり高い硬度まで測定できるので、刃物鋼のみならず、軟らかめの金属からセラミックの硬度表示まで、幅広く使用されている(念のために言っておくが、「橋本強姦クラブ」などと言う団体は存在しない)。

[背骨くん](Sebone-Kun)

 商品名である。
 
プラスチック製の球体関節を、いくつもつなげた様な物で、見た目は確かに背骨そっくりである。
 
1~2年程前に、渋谷の東急ハンズで見つけた時には、材料コーナーで一定の長さ単位(15cmとか50cmとか)でバラ売りしていた。その場で一つ買って、Mスペースの集会でメンバー達に見せたのだが、皆「面白いね」、「何かに使えそうだね」等と興味は示すのだが、具体的に何に使うかとなると、帯に短したすきに良しで、あう物がなかなか無く、私も衝動買いしたものの、実際何かに使うまでは至らず、結局実際に使ってキットに組み込み、これは便利だと喜んだのはY氏ただ一人であった(このY氏とは、Y氏の事であって、決してY氏の事ではない。こう書くとあのY氏の事の様だがそれも違い、このY氏は、あのY氏とは別人である。ましてやY氏の事では絶対に無いので誤解のないように。Y氏の名誉にもかかわるので、念のため)。
 
こうして背骨くんの事は忘れていた訳だが、先日、何気なく教育テレビを見ていた所「ロボット・パルタ」と言う短い人形アニメを放送していた。 これはなかなかキャラクターも可愛く、結構面白いなと思って見始めると、主人公のパルタを除いた他のロボット達のほとんどが、手足の関節にこの背骨くんを使っていたのだ。中には、両手ともまるまる背骨くんのロボットもいたりして、楽しい発見だった。ところが後日、当MスペースのH氏と話をしていた所、彼がこの番組の制作にモデラーとして参加している事が解り、二度びっくりしたのであった(ちなみに、このH氏とは、あのH氏である)。[ 註10 ]

この原稿は、当然展示会の前に書いている訳ですが、この回の展示会で、「ロボットパルタ」の作者、保田(ぼうだ)さんにお会いする機会を得ました。その時はパルタについてお話したりして、それっきりなのですが、後日、高校の同級生で、アニメーターや絵本作家をやっている「西内としお」(「みんなのうた」のアニメーションもやっている)と久しぶりに再会した時に、同じNHKがらみだから、と聞いてみると、
「うん、ぼーだ君ね、知ってる知ってる」
との事、昔一緒だった事があるそうです。さらに一つ奇縁がつながりました。

さて、当の背骨くんであるが、現在はハンズの材料コーナーには置いていない。売場の人に聞いてみた所「あんまり売れないんで、やめました」と言われてしまった(早坂好恵ではないが、正に「ぎゃふん」である)。
 
H氏に、どこで入手しているのか聞いてみたら「文具店でクリップ付きの奴を大量に買っています」との事。これも背骨くんと言う商品名で、両端に吸盤とメモクリップが付いた物をOA用として売っているのである。これは結構便利な商品で、実は今この原稿もこの背骨くんクリップでぶら下げられた手書き原稿を見ながら、ワープロを打っているのである(ちなみにワープロ提供もH氏である。THANKS!)。

[タミヤカッターのこ](TAMIYA Mini-Razor Saw)

 「L型刃」の項で、L刃の話は終ったと思っていただろうが、油断は禁物である、実はこの項もL刃の話が続く。
 
タミヤブランドの模型用工具の中でも、この「カッターのこ」は割とポピュラーで良く知られていると言って良いと思うが、これがL刃とも深い関係を持っているのである。私の大いなる野望である日本L刃化計画(日本をL刃にしてしまえ!)を阻んでいる大きな原因の一つに、かつてOLFAが出していた「L刃アートナイフ」が廃版となってしまった事があげられる。今や完全に幻の商品となってしまい、見た事のある人すらほとんどいないのが現状である(ちなみにプラモ大好き(1)の39ページに工具箱の写真があるが、この中にパッケージに入った状態のL刃アートナイフが写っている)。
 
そんな状態なので知られていないのも無理はないのだが、「カッターのこ」と「L刃アートナイフ」と言うのはほとんど同じ製品なのである。
 
実質的な違いは、替刃を支える鉄製のレール状の部品に替刃をとめるボッチが打ち出されているのだが、これが「L刃アートナイフ」では外から見えない奥の位置にあったのが、「カッターのこ」では穴のあいた専用の替刃が作られたため、ボッチがもっと前の位置にある、と言う一点だけと言って良く、他にはモールドカラーが違う程度の事である。
 
つまり、この邪魔なボッチさえ潰してしまえば「カッターのこ」は「L刃アートナイフ」へと変身するのである(ちなみに私はボッチ部分に釘しめをあてがい、上からハンマーでぶったたいて潰している)。
 
ただ、これだけでは刃を止めるための奥のボッチが無いため、替刃がどんどん奥へもぐって行ってしまうので、何らかのストッパーが必要となる。私は、鉄部の付け根近くの部分にドリルで小さな穴をあけ、そこに適当な大きさの精密ネジ(ヘッドホン・ステレオ等に良く使われている物。DIY店等で見かける事もある)をネジ込んでストッパーにしているが、この二つの工作だけで「カッターのこ」は完全に「L刃アートナイフ」として機能する物になる(「カッターのこ」としては、もう使えなくなるので注意)。[ 註11 ]

この部分は、文章だけでは全く通じない、と後から言われました。できればそのうち図版を入れたい所ですが、しばらく先になりそう。とりあえず、想像力で補って…。

「L型刃」の項で推薦した「超鋭角刃」も「L刃アートナイフ」があって始めてその力を最大限に発揮する。「カッターのこ」を一つ無駄にするだけの余裕と覚悟のある人にはぜひこの改造はお勧めしたい。以上、日本L刃化計画推進本部長、石川からの提案とお願いなのであった。

[デザインナイフ](Design Knife)

 「アートナイフ」ではOLFAの独壇場だったが、「デザインナイフ」では、NTがかなり力を入れており、ラインナップも充実している。一方OLFAからは「デザインナイフ」は一種類しか出ていない、このあたり2大カッターメーカー間の静かな確執と言うか、プライドと意地の張り合いのような物がかいま見え、なかなか興味深い物がある。
 
NTからは、D-400、D-800、D-1000の三種のホルダーが出されており、この他にも曲線切り抜き作業用の、ヘッド部分が回転するスウィブルナイフがやはり同じ替刃を使う物なので、これを入れると四種類がラインナップされている事になる(これを見ても「デザインナイフ」が本来、紙やフィルムの切り抜き用具である事がうかがえる)。
 
そして替刃もポイント角が30度と45度の二種類があり、好みの方を選べる様になっているのは有名だが、この他にもスペシャルブレードとして、ジルコニアセラミックやサーメット等の特殊素材で作られた替刃を出すなど、この規格にかける意気ごみの程がうかがえる。
 
ただ、意外な事にNTでは「デザインナイフ」と言う名称を使っていないのである。正式には「D型カッター」であり、替刃も「D型替刃」と呼ばれる。似た様な事はOLFAにもあり、他のほとんどのメーカーが、大型のカッターは「L型」、小型の物を「A型」と呼んでいる中で、OLFAだけが「カッター(大)」、「カッター(小)」なのである。
 
さてそのOLFAだが、この項の冒頭に述べた通り、「デザインナイフ」は一種類だけであり、替刃も30度刃の一種類しかない。意外に気づかない事だが、45度角の替刃と言うのは、NTしか出していないのである。
 
こう書くと、OLFAの「デザインナイフ」は質的に劣っている様な印象を与えるかもしれないが、そんな事は無い。かえってNTのDシリーズよりこちらの方が好きだという人は多いし、何よりもタミヤブランドの「デザインナイフ」が、OLFAなのである(これは、色が違うだけでなく、柄の部分は別型の物である)。
 
そしてこの二社以外にも「デザインナイフ」規格の物を出しているメーカーは数社あるが、個人的に気に入っているのは、「KDS-Hi」と言うブランドの物である。これは東急ハンズで入手できる商品で、比較的安価な割にはしっかりしていてデザインも良く、何よりもカラーバリエーションがあるので(私の知る限り、ブルー、グリーン、グレーの三色)、取りつける刃の種類によってホルダーの色を決めておく、と言った使い方ができるのが嬉しい。
 
さて、ここで又もやL刃の話になるのだが、前回のパンフレットでも紹介した、タジマの「ダブルL刃」だが、これは折り取った刃が「デザインナイフ」に取りつけられるので、ここでは「デザインナイフ」用の替刃としてぜひお勧めしたい。一部のホルダー、例えばKDS-HiやNTのD-800等には入らないが、私は改造して穴を広げ、無理やり突っ込んで使っている(「へっへっへっ、お嬢さん、あっしゃね…」「いけません、そんな大きな物、私にはとても…」「へっへっへっ、そんな事言ってる割には、ほら、もうこんなに……って
、続けようと思えばいくらでも続くのだがこれ以上やると品位にかかわるので、読者サービス(?)はこの辺で終る)。
 
ただ、このタジマの「ダブルL刃」(「硬刃ダブル」と言うのもある)と言うのは、少なくとも私が在住する埼玉県北東部周辺のDIY店では、割と良く見かけるのだが、他の地域にあると言う保証はなく、又「L型刃」の項でも書いた通り、万人向けと言うには多少クセの強い刃である。もっと入手しやすい同等品がないかと思っていたら、なんとNTで同じ様に使える物が出ていた。
 
これは渋谷東急ハンズのB1カッターコーナーで見つけたので、入手には問題ないだろう。商品名は「短刃」(何て読むんだ?)と言う物で、具体的にはタジマの「タブルL刃」を8枚分析り取った残りの状態と同じ物である。折り取った刃の形状は全く同じなので、その点では問題ないし、タジマの物に比べればこちらの方が切れ味は良いので、その点でもお勤めできる。特別な改造等は一切必要ないので、「デザインナイフ」用のポイント角60度の替刃だと思って気楽に使ってみて欲しい。

[刃先](Edge)

  「切先(ポイント)」の項でも書いた通り、刃物の、物を切るエッジ部の事を本稿では「刃先」あるいは「エッジ」と呼ぶ事にしている。そして本稿内で「刃先角」、「エッジ角」という言葉を使う場合、それは刃付け角度(研ぎ角度)の事を意味する。この「刃先角」と言うのは、我々素人は勿論の事、専門家でも正確に測定する事が難しく、ごく最近レーザーを利用した測定器が開発されたが、それまでは(非破壊的に)正確な測定をする事は、事実上できなかった。[ 註12 ]

これは、「厳密な科学的測定」の話。カンナやノミなど、計りやすい物については、実用上は角度定規等で充分測定可能です。両刃の包丁や、カッター、カミソリの刃なんかは難しいでしょうが。

勿論、カッター刃やシェーバー刃の様な大量生産される物は、あらかじめメーカーが設定した「刃先角」になる様、厳密に管理されているので誤差は非常に小さいが、それを判定する事は、我々にはまず不可能と言って良い。
 
又、「刃先(エッジ)」に関して、角度以上に切れ味を左右する重要な数値に「刃先R」と言う物がある。刃物のエッジ部は、厚みと言う点では限りなく0に近いが、実際には0になる事はない。どんな鋭い「エッジ」でも、拡大していけば先は丸まっている筈であり、この円の径が「刃先R」と呼ばれている。当然これが小さい程切れ味は増す訳で、「刃先角」は鋭いが「刃先R」が大きい刃物より、「刃先角」は鈍くても「刃先R」が小さい刃物の方が切れ味が良い、と言う様な事は実際にも良く経験する。
 
通常、手で研いだ場合の「刃先R」は、1ミクロンが限界と言われているそうだが、カッター替刃等、機械刃付けの場合は大量生産でも、0.1ミクロンの「刃先R」が可能だと言う事である。

[ポイント](Point)

 「切先」の項を参照の事。

後記

 いつも通りの「濃い」原稿になってしまったが、今回特に下ネタがきつくなった原因は、久しぶりに天才山上たつひこ先生を読み返して感動の余りの「がきデカ」へのオマージュである。例年通り、内容に関する質問、反論等は直接、石川までと言う事で、次回に続く(のかな?)。