欠陥模型大百科・私家版
ENCYCLOPEDIA MODELLICA “abridged” version
Private Edition ver3.3
石川雅夫(MMI/LIMEGREEN)
第5回モデラーズ・スペース展示会(1994年)
[アート・ナイフ](Art Knife)
前々回の当パンフレットで、「アートナイフなんか大キライだ!」、「私はそんな物は絶対使わん!」等と豪語していた私であったが、実は現在私の机上のペン立てには十数本ものアートナイフが所狭しと立ち並んでいる。
「この変節漢!」、「転び伴天連!」、「社会党野郎!」、「お前は柿澤弘治か!」等、数々の怒号が飛びかっていることと思うが、批判は甘受することにして、一応の説明をする。
私がア-トナイフを使わなかった理由は、前にも書いた通り、「30度、45度の刃先は鋭角すぎて使いづらい」、「刃付けがデリケートすぎるため、使い始めだけ異常に切れ味がよく、それから急激に切れ味が落ちてしまい、いわゆる『刃もち』が極端に悪い」等であった。
今でもそれは変わっていないわけで、ではどうしているのかといえば、刃先を自分で研ぎ直して使っているのである。具体的には刃先の部分を日本刀の切先の様な形状に荒目の砥石で削り直し、その形状に添って手研ぎで刃付けし直している。
大変そうに思われるかもしれないが、アートナイフ程度の大きさではそれ程でも無い。現に私はグラインダーさえもっていないのだが、別段不自由も感じることなく数十に及ぶ替刃を研ぎ直している。
研ぎの詳細についてはスペースがないので割愛するが、基本だけを述べると、砥石はポケット・サイズのオイルストーンを数種類使っている。
荒砥(#180程度)・中砥(#320~#500程度)・仕上げ砥(#1000以上)と三種類あれば良いだろう(一本¥500~¥1000ぐらい)。#6000を越えるような超仕上げ砥もあるが、これは天然石しか無く、小さくてもかなり高価なので無理してまでそろえる必要はないだろう。最終仕上げには私は自作の革砥を使っているが、これはジーンズ等の荒目の布で充分代用できるらしい(段ボールやバルサでも良いという事だ)ので手近の物で間に合わせれば良い。
この研ぎ直しを始めた当初は、研ぎ自体がおもしろくて仕方がなく、それこそ覚えたてのサルの様な(?)勢いでいろんな形状の刃先を作ってみたり、目についたデザイン・ナイフの類いはかたっぱしから集めて研ぎ直してみたりしていた。その結果、机の上にやたら多くのデザインナイフ類が転がっている訳だ。
そのおかげと言おうか、使い易い刃先の形状もかなり固まって釆たし、各メ-カーによる鋼材の違いも何となく解って来た気がする。カウリX製でHRC67ぐらいのアートナイフ替刃がどっかから出ないかな、などとバカな事を思う昨今なのではあった(誰か本当にださない? 作って!)。[ 註1 ]
この時期は刃物の研ぎについて色々しらべており、それが嵩じてナイフ全般に興味が膨らんでいました。おかげでこんな事を書いておりますが、見逃して下さい。まぁ実現したらそれなりに使えるとは思うけど、およそ非現実的な価格になるのは目に見えてるし…。 |
[色あし]
聞き慣れない言葉だと思うが、混色を行う場合、特に淡色系の色を作ろうとする時には気を付けなければいけない現象の事である。
ある色に対して、白、又はクリアーを足していくと色相がずれていく現象を「色あし」と呼ぶ。これは通常、その色に微量含まれていた色の性質が強く現れてくる物で、実例をあげると、例えばコバルトブルーに白を混ぜた場合が解り易いと思う。
コバルトブルーは青系の色の中でも赤味の混ざったブルーであるが、白を混ぜて行くに従って赤味が勝ってきて、薄いブルーではなく薄い紫に近づいて行く。こういった色のずれを「色あし」と呼ぶのである。[ 註2 ]
この書き方だと、「コバルトブルーには赤い色素(顔料)が混ぜられている」と云う誤解を招きかねませんが、勿論そんな事はありません。コバルトブルーに使われている顔料そのものが元から赤みがかった青である、と云う意味です。 |
[HRc]
この場合は、ホンダ・レーシングの事では勿論ない。ましてや「橋本強姦クラブ」では絶対に無い訳で、これはロックウェル硬度と言う硬度単位の事である。刃物綱の硬度表示に良く使われる単位で、カスタム・ナイフの広告等を見ると頻繁に出てくる。数字が大きくなる程硬度も高くなり、ちなみにHRCで67と言ったら金属製刃物としてはこれはもうとんでもない硬さである(ガーバーあたりのマスプロ物のナイフでHRC60前後、日本刀や、カスタムナイフでもHRC65を越える物はまれと言う)。
[L刃アートナイフ] (Art Knife for L-Blade)
前々回のパンフレットでOLFAの「L刃アートナイフ」を紹介した時には、その時点で絶版になっていた、と言う大マヌケをやった訳だが、今回は替刃の方で面白い物を見つけたのでここに報告してみたい。
これはタジマ・ツールと言うメーカーが出している「ダブルL刃」と言う奴で、通常のL刃は折りミゾが10ミリ間隔で切ってあるが、これは5ミリ間隔で切ってある。 このため、折り取った刃をデザインナイフ等のホルダーに取りつけて使用できるのである(もともとメーカー側ではこれを、刃先が二倍使える、と言うコンセプトで商品化したらしい)。
OLFA製品とは多少違うが、これも一種のL刃アートナイフと言えると思う。刃渡りが短くなるのが欠点かもしれないが、私は重宝している。
[オイル・ストーン] (Oil Stone)
日本で昔から使われてきた水をかけながら使う砥石ではなく、ホーニング・オイルと言う油を使って研ぐ西洋砥石の事を日本では一般にオイルストーンと呼んでいる(実は、厳密にはこれは間違いらしい。本来オイル・ストーンというのは、あらかじめオイルを含浸させた砥石の事なのだそうだが、ここでは面倒なのでそう言ったうるさい事は言わないで、一般的に使われている意味でのオイルストーンとして、この言葉を使う事にする)。
オイルストーンなのだから研ぐ時には油を使わなくてはいけない、と言う事に普通はなっているが、実はそうではないらしい。天然産の石なら水を使っても何の問題も無いし(考えてみれば当たり前だ、自然の中で風雨にさらされていた石ころなのだから)、合成物のオイルストーンでも結合剤に水溶性の物を使っていなければ大丈夫だ。
少なくとも私が何も考えずに買った合成オイルストーンは全て水につけてあるが今のところ問題はない(勿論、全部が全部OKと言う訳ではない。水につけておくと崩れる物もあるらしい。見分け方は……知らない)。[ 註3 ]
これにはひとつ書き忘れていた事がありました。研ぎに使ったオイルストーンをそのまま水に浸けておくと、砥石の目に詰まった研ぎ滓が錆びてしまうのです。使い終わる度にきちんと表面をドレッシングしておくか、あるいは正直にオイルを使うかにした方が良いでしょう。 |
超仕上げ用にはARKANSAS(ナイフ関係の資料を読んでいると、大抵これを「アーカンサス」と読んでいるのだが、クリントンが大統領になってからこっち、日本でもこれは「アーカンソー」と原音にちかい読み方をするのが常識になっている。混乱を避けるため、ここでは原語で表記する)産の天然石が良いが、OLFAから出ている「セラミック・スクレーパー」で代用できるらしいので、こちらを利用するのも手だろう。
ちなみに私はアートナイフ刃の研ぎをする場合は、棒状のポケットオイルストーンの両端を右手の親指と中指ではさんで持ち、砥石の方を動かして研いでいる。 これは私が普段ヤスリがけをしているやり方そのままであり、つまり刃物の研ぎだからと言って特別構える事はない、と言う事だ。造型作業の延長だと思えば何と言う事も無いのである。
[カウリーX](Cowry X)
大同特殊鋼が生産する刃物用粉末合金の商品名。’93年の発表以来、ナイフ用鋼材として注目を浴びている。高炭素ステンレス系刃物用鋼材としては異例の硬度HRC67を実用レベルで達成した、今話題のカスタム・ナイフ材である(別に私は大同特殊鋼の回し者ではない)。[ 註4 ]
これ以降も鋼材メーカー数社から同様の粉末刃物鋼が発表され、最近1番話題になったのがZDP-189。刃物鋼材界の巨人、日立金属がついにナイフ用粉末高炭素鋼を出した、と大々的に取り上げられました。とは言うもののいずれも価格や加工性、実用性等の問題から主流にはなり得ていないのが現状…。 |
[革砥](Razor Strop)
刃物の研ぎの最終仕上げに使う、革をベルト状にしたもの。
最近はどうだか知らないが、昔は理髪店内には必ずこれが数本下がっていて、顔剃り前の剃刀をザッザッとしごいている姿が良く見られた物だ(余談ではあるが、今の様に替刃式の剃刀が普及する前は、床屋は剃刀を自分で研いでいたのだそうで、逆に言えば、剃刀が研げる様になってやっと一人前、と言う事だったらしい。剃刀の研ぎと言うのは、包丁やナイフ等と比べてもかなり難しいそうで、砥石も専用の「剃刀砥」と言う超仕上げ砥石があるのだという事だ)。
ちなみに私が前述した自作の革砥とは、単語カードぐらいの大きさの木の板に、革を張りつけただけの簡単な物である。
オイルストーン同様これも右手にもって、こちらのほうを動かして使う(刃物に革砥をかけるこの作業をラッピングと呼ぶ)。研ぎの専門家が見たら目をむきそうなやり方だが、誰でもない自分が使うために研ぐのだから、別にこれで構わないと思っている。自己流もいいところだが、そこそこ切れる刃は付けられる様になって来たのでまあまあ満足しているところである。
[サーフェイサー](Surfacer)
言わずと知れたあれの事である。「サフェイサー」と記述する人が多い様だが、語感が嫌いなので、私は「サーフェイサー」と書く(”surface”を「サフェイス」と発音する奴はまずいないでしょ?)。詳しい事は「塗料」の項を参照の事。ちなみに私は使わない(などと言いつつ、これもいつかは「アートナイフ」の道をたどる可能性が……)。[ 註5 ]
この予感は見事に的中する事になり、これ以降サーフェイサーに対するスタンスは、殆ど年ごとに変化して行きます。アートナイフと並んで大河シリーズと化して行く過程を読み進んで下さい。それにしても当時はまさか「SURFACE」と書いて「サーフィス」と読ませるユニットがデビューするなどとは思いもしなかった…(私達が使っていたのは実は「サーフィサー」だったって事?)。 |
[体質顔料]
増量、補強、つや消し等の目的で単独または着色顔料と共に使用され、これ自体には着色力がほとんどない。粉末の状態では光を反射して白色に見えるが、油や樹脂液を混ぜ合わせると半透明になる。石綿粉・アルミナ・クレイ・タルク・胡粉・炭酸カルシウム・等種類は多い(いかん、普通の事典の記述になってしまった)。[ 註6 ]
この「体質顔料」は英語で何と言うのかご存知の方がいらしたら教えて下さい(「Body Pigment」じゃあ無いよね?)。「色あし」についても同様。 |
[デザイン・ナイフ](Design Knife)
厳密には「アート・ナイフ」とは別物と言うことになるらしい。OLFAブランドでは両方出ているが、名前が違うだけではなく、ホルダー、替刃のサイズ共に違う。NTからは「アートナイフ」は出ていない、OLFAが版権でも持っているのだろうか。
どうでもよい事だが、かねてからNT党を標榜していたこの私が、各メーカーの製品を色々使ってみて、結局研ぎ直した後の使い勝手が一番良かった(刃の大きさ、形状、鋼材の硬度等)のがよりによって一番嫌っていたOLFAのアートナイフだったのは残念と言うか、悔しかった。仕方なくOLFAを使っている訳だが、最後のプライドとしてあのOLFAイエローだけは絶対に許せないので、割高なうえにホルダーの材料そのものも黄色のものにくらべてやわで、はっきり言って使い勝手もおちる黒のホルダーを使っている今日この項である。[ 註7 ]
ここは明らかに訂正が必要。黒い物も黄色い物も着色材以外の材質は殆ど変わらない様です。使い勝手も似た様なモンですし…。 |
[塗料](Paint)
この程度のスペースで、こんな漠然とした定義の大きい項目を取り上げるのは無謀であるが、今回は模型雑誌等では取り上げられる事のない、基本中の基本、「塗料とは一体何であるか?」に絞って書いてみたい。
言葉の定義としては、事典風に記述すると「流動性の物質で、物体の表面に塗り広げられると薄い層を形成し、乾燥固化すると連続した皮膜となって物体表面に付着して保護と美粧の機能を有する」といったところだろうか(こんな事がスラスラ言えたからといって、実際の塗装に役立つ訳ではないが、一応知っておいて損はあるまい)。
今回のいわば本題は、塗料とはどんな物から出来ているか、つまり「塗料の構成要素」についてである。
まず大別すると、乾燥固化後塗膜に残る不揮発分(「塗膜形成要素」とも言う)と、塗料の流動性を調整するために加えられ最終的に塗膜には残らない揮発分(「塗膜形成助要素」と言うらしい)とに区別される。
この内、不揮発分は主に樹脂分と、着色塗料であれば顔料から成っている。樹脂分は「展色剤」、あるいは「VEHICLE」(塗装用語としては”ビヒクル”と読むことになっているのだそうだが、何か語感がよくないし、かといってモデラーの感覚通りに「ヴィークル」と書いてしまう訳にもいかないので、ここでは”VEHICLE”と表記させてもらう)とも言われ、合成樹脂や天然樹脂等の高分子か、乾燥その他化学反応等によって高分子になることの出来る物質である。
揮発分については基本的に「溶剤(SOLVENT)」の事と考えて良いだろう。前回のパンフレットで説明したと思うが、「溶剤」はその機能において、『真溶剤』、『助溶剤』、『希釈剤』の三つの働きを持つものに分けられる(この場合の「溶剤」は、シンナーの事ではなく、その成分となる各有機溶剤ひとつひとつの事である)。
『真溶剤』は、それ単独で溶解力を持つ場合(ニトロセルロースラッカーに対する酢酸エチル、等の組み合わせがこれに相当する)、
『助溶剤』は、それ単独では溶解力を持たないが、真溶剤に加えると溶解力を上げる事ができるもの、
『希釈剤』は、溶解力は持たないが、真溶剤、助溶剤と混ぜて粘度を下げる事ができるもの、と言う分類になる。
そして重要なのは、これらの関係が常に相対的なものであり、ある特定のVEHICLEに対して、と言う条件のもとにのみ成り立つものだという事である。
つまりこの分類は、VEHICLEが変わればまるで変わってしまう(例えば、キシレンは、アルキド樹脂に対して真溶剤として機能するが、ニトロセルロースラッカーに対しては希釈剤である)、極端に言えばVEHICLEの数だけその分類も存在する、と言った性質のものなのだ。
普段我々が使用する塗料用シンナーはこれらを踏まえて綿密に設計された物であり、従って私たち素人が浅い考えで指定以外のシンナーを使ったり、混ぜ合わせたりする様な事はやめておいたほうが良いといえるだろう(以前、Mr.カラーにリターダーの代用としてタミヤエナメルのシンナーを混ぜて使っているのを見たことがあるが、これなどはおそらく乾燥過程において塗膜異常を起こすと思われる)。
また、以上の事を理解すると、日常私達モデラーが良く使う「あのシンナーは強い」とか「このシンナーは弱いから上から塗っても大丈夫だ」と言った言い方が、現象の上っ面だけを見たかなり大ざっぱな表現だった事が解ると思う。たまたま、模型用として常用される何種類かの塗料の間にはそういったPRIORITY(すまん、時間がなくて適当な訳語が思い付かんのでこのまま書く。ヒエラルキーつてのもちょっと違うし……)が、一応実用上は問題なく成立するのでこういう便利な表現が通用しているのだ、程度に思っていた方が良い。
続いて、これら構成要素の組み合わせについてだが、VEHICLEと溶剤だけでできている物を「クリアー(CLEAR)」又は「ワニス(VARNISH)」と呼ぶ(これに染料で着色してある場合も「クリアー」である)。そしてクリアー塗料に有色顔料で着色した物が「ペイント(PAINT)」又は「エナメル(ENAMEL)」と呼ばれるのである(ここでも模型用語との混乱が見られるが、これについては前回ネタにしたので今回はふれない)。
さて、通常私達は「パテ」「サーフェイサー」「塗料」とこれらの三つを別物として扱っているが、分類上はこれらは同じ物と言って良い。あえて乱暴な言い方をするならば、これら三つの違いというのは体質顔料の含有率だけと言っても良いくらいである。
通常の塗料の肉持ちを良くするために、塗料としての粘度の限界を越えない範囲で体質顔料を増加した物がサーフェイサーであり、それにさらに体質顔料を加えるとパテになる、と言ってしまっても基本的には間違いではないのである。
勿論、実際にはそれぞれの機能にあわせてVEHICLEの段階から設計されている場合がほとんどであり、また顔料についても、特にパテの場合には体質顛料だけではなく金属粉顔料などさまざまな顔料が加えられる事が多い、しかし基本的な理解の仕方としてはこれら三種は同じ物であると言ってさしつかえないと思う。
これとは逆に、その機能が他の三種とは根本的に違う事があまり理解されていないのが「プライマー(PRIMER)」である。
金属など、塗料の付着性の悪い材料に塗装前に塗って上にのる塗料の付着性を向上させるのがその役割であり、プライマーそれ自体、分類上は塗料であるが、機能的には下地の前処理に近いと考えた方が良い。
以下に具体的な違いを述べるが、まず第一に、プライマーは(種類にもよるが、基本的には)、なるべく薄く塗った方がその本来の性能を発揮する。 プライマーは大抵クリアーなので、メタルパーツ等に吹くときなどきちんと塗れているか不安になり、二度、三度と缶入りプライマーを吹き重ねてしまった経験はないだろうか? これは百害あって一利なしである。プライマーはできる限り薄く塗る、これを鉄則と心得て欲しい。
第二に、プライマーは、決して研いではいけない。他の三種はすべて塗膜を整える場合に表面を研ぐ事が前提になっているが、プライマーはそうではない。 つまり、下地にプライマーが塗ってある場合は、下地が見えるまで塗膜を研いではいけないのである。
このようにプライマーは、いわゆる「塗料」とはかなり性質の違う物であり、これらの事を良く知った上で使わないとあまり意味がない。
ところで私には、「プラサフ(プライマー・サーフェイサー)」なる物の正体が良く解らないのだが、どなたか詳しく御存じの万はおられるだろうか。プライマーとサーフェイサーと言う、機能的に反する性質をもったこの二つをどうやって一つにまとめているのか、ぜひ知りたいと思っている(この項目は続けようとすればいくらでも続いてしまい、キリがないのでとりあえず今回はここで一応終わりにする。あ~、まとまらね~!)。[ 註8 ]
これについては後々「サーフェイサー」シリーズの中でも何回か出てきます。一応結論らしき物が出るのが98年分原稿の「プラサフ」の項です。 |
[ブロンズ現象](Bronzing)
ある種の顔料、染料を含む塗料に見られる現象の事で、乾燥した塗膜がきらきらと金色に光って見える現象を言う。 模型用塗料ではめったに起こらないが、以前、Mr.カラーのブルーを厚塗りした時に似たような現象を経験したことを報告しておく。 具体例をあげると、傷口にマーキュロを塗った後しばらくするときらきら光って見えたあれの事である(今の若い者は赤チンを知らない?じゃあ赤インクのフタの回りで固まったやつが光って見えるあれだよ!悪かったな例えが古くて、どうせ年寄りだよ!)。
[ポリパテ](Polyesther-Filler)
みなさんおなじみのあれの事である。 おしまい(おいおい)。
勿論これで終わる訳にはいかないが、いまさらポリパテについて誰も知らなかった意外な事実、例えば「ルーク。実は私がおまえの父だ!」とか「実録! Y氏の乱れた夜と爛れた性!!」とか「スクープ! H氏と新人アイドルK・Mとの口には出せない関係!!」などと言う様なネタはあるのか(ね~よ)。
普通、模型関係の資料ではポリパテについて「主剤と硬化剤を混ぜて使う化学反応型のパテ。 肉やせがほとんどなく、造形用に広く用いられる」といった説明がされている。 日常的にポリパテを使っている削りだし派のモデラーにとっては、常識以前の説明と思われる事だろう。
「それではここで問題です。 どうしてポリパテは肉やせしないのでしょう?」。
答られなかった人の為に、以下がその説明である。
塗料の項で説明した様に、ポリパテについて述べると言うことは、ポリエステル塗料についての説明と言う事になる訳でこれは正しくは「不飽和ポリエステル樹脂塗料」と言う。
詳しく述べると、
「無水マレイン酸やフマール酸などの二重結合をもった不飽和二塩基酸と、無水フタル酸などの飽和二塩基酸とを、エチレングリコールやプロピレングリコールなどのグリコール類によってエステル化して作った不飽和ポリエステル樹脂に、スチレン・ビニルトルエン・アクリレート類などの重合性モノマーを混合し、更に重合開始剤、促進剤を添加して硬化させる多液型塗料」
なのだそうである(あ、そこの君、寝ないように。 今の部分は見て解る通り資料を丸写ししただけで書いてる私も何のこっちゃわからんのだ)。
日本語に直すと、不飽和ポリエステル樹脂をVEHICLEとし、スチレンなどの重合性モノマー(単量体、単分子)を溶剤として、触媒によって硬化させる塗料と言う事だ(あれ?全然解りやすくなってない……)。
この重合性モノマーを溶剤に使える、と言うのがポリエステル塗料の特徴であり、いわばミソなのだ。
高分子(ポリマー)という言葉は聞いた事があると思う。ごく簡単にいうと炭素を中心にした巨大分子化合物で、通常私達が素材として使っているプラスチックはほとんどがこのポリマーである(それでたいていのプラスチックには、POLY-と言う接頭語がついている訳だ)。
この高分子の構造を調べてみると、小さな分子の繰り返しによって巨大化している事が解る。この小さな単位分子の事をモノマーと言うのであり、言わばプラスチックの素と言ったところである(勿論、すごく大まかな表現だよ)。
普通、ポリウレタン塗料の溶剤としてもっとも一般的に使われるのはスチレン・モノマーであるが、こいつが高分子化したのが数あるプラスチックの中でもモデラーに最もなじみの深いスチロール樹脂(正式にはポリスチレン樹脂)である。
そして、不飽和ポリエステル樹脂が触媒によって重合反応を開始すると、そのついでに(おいおい)溶剤として混ぜられていたモノマーも重合を初めて、ポリマーになってしまうのである。
つまり平たく言えば、「シンナーが固まる」のだ。
おかげで通常は揮発分である溶剤が不揮発分となるため、塗料のほとんど100%近くを不揮発分にする事ができる。これがポリパテが肉やせしない理由なのである。
たまに模型誌の記事などで、ポリパテの粘度を下げたい時はラッカーシンナーを混ぜても良い、などと書いてある事があるが、ここまで読んで来られた方ならこれは絶対やめたほうが良い事がお解りだと思う。確かに混ざりはするが、言ってしまえば混ざるだけであって、重合反応など起こすはずもなく、硬化後も全体的にスカスカした「ス」が入った様な感じになってしまい、せっかくのポリパテの特徴を台なしにするだけだ。
やはりここは、ワークの製品「パテスパイス・ソフト」を使いたい。しかしこれが専門店でもしょっちゅう品切れで、時々思い出した様にしか入荷しない。見た時には迷わず買いだめすると言うのもひとつの手だが、実は各塗料メーカーからも同等品がいろいろ出ているのである。私はイサム塗料の「ポリパテ希釈液」(だったと思う)と言う奴を常用している。
私の場合はこれを塗料問屋から直接買っているので、一般の塗料店でも手に入るという保証はできないが、塗料専門店だったら注文すれば入れてくれるのではないだろうか。私はたまたまイサム製品を使っているが、近所の塗料店で取り寄せてもらえるのであればどこのメーカーのものでも充分使えるだろう(私の使っているイサム製品は、おそらくワーク製品と同じ物だと思う。イサム製品について問屋さんに聞いてみたところ「ただのスチレンモノマーですよ」との事であった)。
また、先日渋谷東急ハンズのB2フロアで、そのものずばり「スチレンモノマー」の瓶入りが売られているのを見かけた(勿論、ポリパテのうすめ液としてである)。ハンズの事だから、例によっていつまでもあるという保証はないが、欲しい人はのぞいて見ると良いだろう。
[溶剤割れ](Solvent Crack)
プラキットを作っていて塗装も終わり、いよいよ仕上げのウェザリングと言う時になって、エナメルシンナーを使ったウォッシングをした途端にパーツにヒビが入り、ロボット物などでは関節が砕けて壊れてしまった、などと言う経験がみなさんにもあるのではないだろうか。
これは「溶剤割れ(ソルベント・クラック)」と言う現象で、熱可塑性プラスチックによく見られる物である。パーツ同士のはめあわせがきつい所など、プラスチックにテンションがかかっている所には、微小なヒビが無数に入っていて、こう言った場所に溶剤が滲み込むと、その強い浸透力によってあっと言う間にそのヒビがどんどん広がってしまうのである。
これを防ぐ為には、なるべくパーツに残留応力を残さない様に組んで行く事が大切で、スナップ・キットなどの場合は嵌め合わせピンを切り取ってしまった方が良い場合が多い。普段良く使う材料の中では、スチロール樹脂とアクリル樹脂が溶剤割れを起こしやすい素材である。